愚痴投稿で懲戒も!SNS「やり過ぎ」の境界線 私生活上の過失が会社の処分に繋がるケース

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「職場で嫌なことがあったという感情をアップするのは良いと思うのですが、その具体的な中身まで書き込むことはやりすぎでしょう。明らかになっていない業務命令や業務内容を逐一公開した結果、秘密事項が漏れたり、業務に支障をきたしたりすれば、『企業秩序違反』にあたるとして、懲戒処分を行う必要性も否定できないと思います。

『懲戒処分』とは、企業秩序を乱したことに対する使用者側の制裁です。労働契約において、労働者は単に労力を提供するだけでなく、企業秩序を守りながら労力を提供するという義務を負っていることになります。

懲戒処分の種類は、『戒告』などの注意処分から、『減給』、『出勤停止』という財産的な不利益が課されるもの、『懲戒解雇』といった重い処分といったように、程度の違いがあります。使用者はこの程度を自由に決められるのではなく、企業秩序違反の程度に応じた重さの処分である必要があります」

懲戒に至る程度は、職種によって変わる

「どのような場合に、企業秩序違反があるといえるかについては、その職種によって違います。また、その行為の秩序違反の程度も職種ごとに異なることになるでしょう。

例えば、私生活での軽微な交通違反は企業秩序違反とはならない職場が大半でしょう。ただ、お客さんを輸送するバス会社やタクシー会社では企業秩序違反になる可能性も出てくるかもしれません。その場合でも、運転手か事務職員か、職種によって異なるでしょう。

他にも、宅配業者の場合は、私生活上の住居侵入罪は、かなり重大な企業秩序違反となります。地方公務員は、全体の奉仕者という観点もあるため、民間とは別考慮が必要です。しかし、処分するかどうかの判断基準としては、民間と同様かと思われます」

最後に、土井弁護士は、これからのSNS利用について次のように話した。

「憲法では『表現の自由』が保障されていますから、職場のことをアップしたら、すべて懲戒処分だというのも行き過ぎのような気もします。各職場の服務規程の中に、SNS等での職場内部の問題の公開について、ガイドラインを作らなければならない時代になったのかもしれません。同じ行為でも職場によって企業秩序があったか否か、その程度が全く違う場合が多いからです。

何らガイドラインがない中で、抽象的な規定によって懲戒処分をすることについては、慎重に考える必要があると思われます」

土井 浩之(どい・ひろゆき)弁護士
過労死弁護団に所属し、過労死等労災事件に注力。現在は、さらに自死問題や、離婚に伴う子どもの権利の問題にも、裁判所の内外で取り組む。東北学院大学法科大学院非常勤講師(労働法特論ほか)。
事務所名:土井法律事務所

 

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