「薪石窯クッキー」(350g入、2800円税抜)も熱烈なリピーターが多い。原料にこだわっているのはもちろん、羽村にある石窯で焼くので生産量が限られており、即売り切れてしまう幻のクッキーだ。香ばしくカリッとした歯ごたえがクセになる。
「お母さんが作るものの延長線上」と田中さんも表現するように、正直に言ってどれも最先端のスタイリッシュな雰囲気はない。一見なんの変哲もないが、安心な素材で、懐かしやほっとした安らぎを感じる美味しさが福島屋の特徴なのだ。このように昔から素朴な商品ばかりなので、森ビルの声がけから実現した六本木進出も、何をウリにすべきか当初は悩んだという。
六本木の華やかなイメージを意識して洋風な惣菜もいろいろと試作した。だが、「結局、スタンスを変えずに行こうということになった」(田中さん)。結果、看板商品として打ち出したおむすびを始め、ありのままの魅力はこの地でも受け入れられた。オープンから2年が過ぎた今、客足が絶えない人気店として定着している。
ブレない理念と共存共栄の精神
「福島会長は、流行にのることはなく、『美味しいもの』『きちんとした商品』というところから絶対にはずれない」と、田中さんは話す。大量生産・大量消費に疲れ、本当に良いモノや確かなモノを求める人が増えている昨今。特に食に関しては偽装問題などが後を絶たず、安心安全な食品や素材を選びたいと願う人は多いため、正しい食を追求し続ける福島屋の姿勢は共感を集めるのだろう。
そしてもうひとつ、福島屋が支持されるワケは、「共存共栄の精神」にあると感じる。「消費者、生産者、小売り・流通業者が三位一体、三方よしでそれぞれに利益が生まれること」を大切にしているのだ。
たとえば、主婦の感性を生かそうと地元主婦に声をかけて雇ったり、食の知識を伝授する講座を開いたりと、消費者とのコミュニケーションを重視するのはもちろん、生産者との連携にも力を入れている。直接取引をし、適正価格での販売に努める。200以上にものぼるオリジナル商品も、生産者との対話から開発したものばかりだ。たとえば、コアなファンが多い「自然栽培 切干大根」(50g、238円税抜)。形が悪いなど流通させることができず余ってしまう大根がもったいないということから、福島屋が設備投資をして商品化した。
過去には月に1度、雑誌「商業界」主宰で「福島塾」という勉強会を実施していたこともある。地方スーパーや食品メーカーを始め、生産者や流通業者など30社と情報交換を行っていた。その他、依頼があればスーパー再建なども担っており、同業者や流通関係者とも、競争ではなく「共存共栄の精神」で関係構築を図っているのだ。
こうした姿勢は、スーパーのひとつのあり方にとどまらず、社会のあり方を提議しているようでもある。激変し、縮小化していくこの国で、「ひとり勝ちや自分ひとりが幸せになること」に疑問を感じている人は多い。よい商品に出会えるだけでなく、こうした課題解決に対する知恵や希望のようなものもどこかで感じるからこそ、多くの人が福島屋に足しげく通ってしまうのではないだろうか。
(撮影:梅谷 秀司)
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