NASA(米航空宇宙局)などに評価される最先端の製品を作れるのは、優れた社員がいるからです。入社試験は少々変わっています。まずテニスボールをハガキに描いて送ってくださいと言います。立体的なものをどう表現し、相手に伝えようとするかを見るのです。2次試験は自分の顔のデッサンです。目、鼻、口がバランスよく描けているか。モノづくりはバランス感覚が大事ですから。観察力、想像力も見ます。
次は昼食です。おかずに魚を出します。なるべく複雑なおかずを出して、はしの持ち方、使い方を見ます。不器用で魚をきれいに食べられない人に細かな機械部品は作れません。
午後は4時間かけて模型飛行機を作ります。紙の切り方、のりの付け方、竹ひごの曲げ方などを見ていると、モノづくりが好きかどうか、小さいときの経験などが手に取るようにわかります。頭だけで考えるのではなく、目で考え、手で考え、耳で考えることができるか。羽根の位置の調節には、バランスや重心について知っていなければなりません。こうした総合力があって初めて飛行機を飛ばすことができるのです。
失敗しないから本人が伸びていかない
以前は面接中心に明るくてきぱきした人たちを選んでいましたが、そういう人たちは要領ばかりがよく、まじめに仕事をして力をつけようとする人が育たなくなったので、今の方法に変えました。30年ほど同じ試験ですが、これにより会社が求める、モノづくりが好きで、自分で考えることができ、手先が器用な人を集められるようになりました。
入社して最初に覚えてもらうことはドリルの刃を研ぐことです。研いだ後、実際に穴を開けさせると、まず開かない。私はなぜ開かないかは教えません。その代わり「もう1回研ぎ直してみなさい。ただし今までとは違う研ぎ方をしてみなさい」と言います。2~3回違った研ぎ方をすると、穴が開くようになります。自分で考え工夫し、体験を通して体で覚えることが大事なのです。
今の若い人を見ていてよくないと思うのは、賢くなって失敗をしないようにしていること。自分が失敗しそうなことをやれと言われると、なかなか動かず、チャレンジをしない。そうすると先輩たちは待ち切れなくなってつい行動してしまう。それを見ていればやり方がわかるから本人は失敗しない。けれども失敗しないから本人が伸びていかない。一人前になるまでに時間がかかる。時間を損していると思う。そういう人は自分でアイデアを出すこともしない。危険な兆候だと感じています。
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