1966年に私が創業した三鷹光器は、従業員50人足らずの中小企業です。けれども大企業が作ろうとしても作れないものを製品化できる企業として、世界的に知られています。7月に経済産業省などが主催の「第3回ものづくり日本大賞」で「内閣総理大臣賞」を受賞した製品もその一つです。
脳外科医が手術のときに使うスタンド式の手術顕微鏡です。本体を医師の後ろに置き、レンズの部分がアームの先についている。世界的な光学機器メーカー、ドイツのライカから依頼されて作り始めたものです。ライカも同様のものを作っていましたが、揺れが大きくて長時間の手術に向かなかった。それを当社の技術で揺れを小さくし、改良を重ね0・05ミリメートルの極小血管の吻合(ふんごう)手術も可能にした。今ではライカと三鷹光器の両社のブランド名が入った製品として世界中で売れています。
モノの理屈がどうなっているか、よく見ることが大事
三鷹光器はもともと天体望遠鏡のメーカーです。その技術を応用したのがこの顕微鏡。望遠鏡は最大1トンの重さのものをゆっくり動かし、星を探したり星の動きを追ったりする。ところが手術用の顕微鏡は大きくても30キログラム。これを揺れないように動かすことは簡単です。要は重りをつけてバランスさせ、軽く動くようにしているのです。他社は軽く動かすためにバネを付けていたが、そうすると余計に揺れる。ウチのはバネを一つも使っていません。
こうした画期的な製品を生み出せるのは、独自のアイデアを発想できるからです。アイデアは考えて出てくるものではありません。目で見て覚えることによって生まれてくるのです。モノの理屈がどうなっているか、よく見ることが大事です。
私は20歳前後の5年間ほど、東京天文台(現国立天文台)で働いていました。そのときさまざまな天体観測の機器を見て、どのようにできているのか、とことん調べて覚えていきました。あるときは水晶の標準時計の仕組みを知ろうと、ドライバーで全部分解してしまいました。それはそれは怒られました。水晶の温度が狂い、標準時も狂い、その調整にたいへん手間取ったからです。でも、このときに身に付けた、モノの仕組みを調べるクセが、後のさまざまなアイデアにつながっていきました。
アイデアは論文ばかり読んでいる人たちからは出てきません。彼らの知識は後追いだからです。実際にモノを見て、どのような仕組みになっているのかと思い、調べていく。そうして自分の目で見て覚えたことがアイデアの宝庫となるのです。
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