原料高がじわり浸透、コスト吸収に苦悩するスーパー
原料値上げの影響は、小売り現場に確実に浸透し始めた。
全国のチラシを集計し価格動向を調査するチラシレポートの澤田英代表は、「昨年6月ごろから値上げの傾向が出てきた」と語る。食用油やマヨネーズなど原料高がストレートに響く商品から、加工食品へと徐々に波及してきている。
たとえば、明治乳業の「十勝バター」(200g)は、昨年1月に比べ約3割値上げ。今年、メーカー出荷価格が10%弱引き上げられた日清食品のカップヌードルは、2007年12月から今年2月にかけて店頭価格も89円から118円へ上昇している。
それでも、小売り側が低価格の旗印を降ろすことは難しい。「賃金が上昇しない中、お客様の生活防衛姿勢が高まっている。安易な値上げは買い控えを招く」(大手スーパー幹部)という懸念からだ。中小スーパーでは値上げに踏み切る店が増えてきたが、大手は価格転嫁に慎重な姿勢を崩していない。実際、大手スーパーのほとんどが、「生活応援」と銘打った特売を続けている。
そのために各社は、さまざまな手法を使ってコスト吸収を図る。総合スーパー最大手のイオンでは、販売数量拡大による仕入れ値抑制のほかに、物流・発注手法などサプライチェーン全体の見直しを進める。たとえば、食パンでは、物流センターからの輸送を1カ所ではなく、店舗近くのセンターに分散させることで物流費を抑制、店頭価格を維持した。
ビールをめぐる攻防、板挟みの卸は死活問題
今後、動向が注目される商品の一つがビールだ。麦やアルミ缶の値上げを背景に、2月にキリンビール、3月にはアサヒビールが出荷価格を値上げした。サッポロビール、サントリーも値上げを予定している。
しかし実際には、店頭での値上げは一部にとどまる。酒類卸売り業者が旧価格のうちに商品を「買いだめ」し、在庫を手厚く持っていたためだ。キリン、アサヒとも値上げ1カ月前の出荷数量は前年同期比5割増と激増した。酒類卸大手、リョーショクリカーの加藤稔社長は、「買いだめはしたくない。でも、小売りに今後値上げを認めてもらうために必要な措置だった」と説明する。
それでも単純計算で考えれば、キープした在庫は半月分にすぎない。現在、卸・小売り間での価格交渉が本格化している。「もし小売りに値上げが通らないなら、取引をやめてもらっても結構。うちには値上がり分をかぶる余裕はない」。別の酒類卸大手の幹部はそう言い切る。
ビールメーカーは05年オープン価格制への切り替えを機に、出荷価格を一部値上げした経緯がある。このときはイオンを中心とした大手流通の猛反対に遭い、値上げが浸透した取引先は4割弱とさんざんな結果に終わった。だが、今回の原料高騰の影響は甚大。キリンでは07年度72億円の利益圧迫要因になった。卸としても、ビールはもともと薄利なうえ、原油高による物流費高騰もある。今度ばかりは真剣味が違う。
小売業界はかつてない値上げ圧力にさらされている。仮に表面的な値上げは回避できても、特売回数の減少などは避けられそうにない。商品値上げはじわりと、そして確実に増えていくことになりそうだ。
(週刊東洋経済)
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