「お散歩番組」人気の秘密は、どこにあるのか テレビは「ハレ」のメディアではなくなった
だがそれだけではない。この番組が優れているのは、街の魅力も同時に見えてくるところだ。例えば、鶴瓶が番組の冒頭で出会った人との話に出てきた家族や友人に、探しているわけでもないのに別の場所で出会う、といった偶然がこの番組ではよく起こる。
鶴瓶がいわば触媒の役割を果たし、その街の人と人とのつながり、コミュニティが、そこに暮らす人たちの息遣いが感じられるような生活の場とともに姿を現す。それは、名産品や名所の紹介からだけでは見えないようなその街の日常だと言えるだろう。
散歩する人の個性が番組の個性に
そして2000年代以降、お散歩番組はひとつの確かな潮流となっていく。
その先鞭をつけた番組が2006年開始の「ちい散歩」(テレビ朝日)である。俳優の地井武男がさまざまな街を散歩しながら人々と交流するというごくシンプルな構成の番組だが、地井の誠実で人情味あふれる人柄で人気番組となった。
この番組の特徴は、凝った演出や映像など作為的な部分をいっさい排した作りにある。そのため、散歩する人のキャラクターが番組の色合いを決める。
「ちい散歩」のあと、加山雄三の「若大将のゆうゆう散歩」(2012)、高田純次の「じゅん散歩」(2015)と同じ放送時間帯でお散歩番組がシリーズ化していくが、散歩する人が替われば同じ街でも自ずと違って見える。例えば、現在放送中の「じゅん散歩」で「テキトー男」の異名を持つ高田がいつもの調子の良さで街の人々と交流する姿は、地井や加山とも違う独特の彩りを番組に与えている。
同じことは、現在放送されているお散歩番組全般にも当てはまりそうだ。散歩する出演者のキャラクターが番組の個性となり、ひいてはお散歩番組の多様性につながっている。
2007年から放送されている「モヤモヤさまぁ〜ず2」(テレビ東京)のスタイルは独特だ。番組のコンセプト自体、テレビではめったに取り上げられない「モヤモヤ」した街にあえて行こうというもの。街の人々との交流も、テレビ慣れしていない素人ならではの独特の間が笑いを生むという、さまぁ〜ずらしいものだ。
2012年開始の「有吉くんの正直さんぽ」(フジテレビ)も、有吉弘行のキャラクターを反映したお散歩番組だ。「毒舌」で知られる有吉は、評判の料理であっても、それだけで称賛することはない。番組のタイトルどおり、自分の感覚に「正直」に感想を伝える。そこに建前を喜ばない視聴者の共感を呼ぶ要素がある。
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