「お散歩番組」人気の秘密は、どこにあるのか テレビは「ハレ」のメディアではなくなった
「遠くへ行きたい」(読売テレビ)は、1970年から現在も続く長寿旅番組である。日本各地を訪れ、その街の風俗・文化や歴史を紹介し、地元の人々と接する。
この番組が従来の旅番組と違っていたのは、永六輔など旅人の個性がより前面に出ていたことである。その分、単なる紹介に終わることなく旅人の印象や実感が伝わり、視聴者にもより身近に感じられる番組になった。その点で、現在のお散歩番組にも通じる部分がある。
とは言え、有名な主題歌の一節「知らない街を歩いてみたい どこか遠くへ行きたい」が物語るように、この番組は純粋なお散歩番組とも言い難い。番組自体、当時の国鉄によるキャンペーン「ディスカバー・ジャパン」の一環として企画されたように、日本を再発見しようという外側から見た視線がそこにはある。それに対して、お散歩番組には日常そのものを体感しようという内側の視点があると思えるからだ。その意味で、「遠くへ行きたい」は旅番組とお散歩番組の中間に位置するような番組と言えるだろう。
以上を前史とすれば、現在のお散歩番組に直接つながるような番組が登場するのは1990年代になってからである。
旅番組がお散歩番組に接近
92年に始まった「ぶらり途中下車の旅」(日本テレビ)には、旅番組がお散歩番組に一段と接近していく様子が見て取れる。
この番組は、毎回旅人が途中下車しながら鉄道路線を旅する。登場するのは基本的に関東地方を走る在来線や私鉄各線、つまり通勤や通学、買い物など日常生活の必要のために使われる路線である。その路線の利用者は、通常目的の駅以外で降りることはない。それに対し、この番組の旅人は特に目的もなく途中下車して、その駅の周辺をぶらぶら歩く。要するに、形式としては鉄道の旅だが、実質は散歩に限りなく近くなっている。
また1995年には、「鶴瓶の家族に乾杯」(NHK総合)がスタートしている。
笑福亭鶴瓶が毎回ゲストとともに全国各地の街を訪れ、「ぶっつけ本番の旅」を繰り広げる。その点、「夜はクネクネ」を思い起こさせる。先ほどふれたように、関西限定だった笑いのコミュニケーションが全国的なものになったことを証明する番組という見方もできるだろう。鶴瓶もまた、笑いを交えた抜群のコミュニケーション術で、偶然出会った地元の人々の素の表情や個性をいつの間にか引き出していく。そこに普段着の人の魅力が浮かび上がる。
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