「お散歩番組」人気の秘密は、どこにあるのか テレビは「ハレ」のメディアではなくなった

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異彩を放っているのが、第4シリーズに入った「ブラタモリ」(NHK総合)である。人の魅力を伝えることに比重を置くお散歩番組が多いなか、この番組は街の魅力を伝えるお散歩番組の最たるものだ。街の歴史や発展に影響した地形などを実際にタモリが専門家とともに歩いて確かめていく。地図マニアとしても知られるタモリ独特の鋭い観察眼が発揮され、一種の教養番組の趣がある。

また最近は、夜の街を散歩する番組も増えている。例えば、「夜の巷を徘徊する」(テレビ朝日)などがそうだ。マツコ・デラックスが毎回深夜の街を興味のおもむくままに歩き回る。酒場だけでなく、深夜のカラオケボックスなど、昼間とは違う街の表情、人々の生態が浮かび上がる。人生相談のような会話になっていくことがままあるのもマツコらしい。昼が日常だとすれば、そこには束の間の非日常が顔をのぞかせる。

テレビと視聴者の関係性の変化

こうしたお散歩番組の隆盛から何が読み取れるのだろうか。最後に少し考えてみたい。

ひとつは、私たち視聴者のなかにあるノスタルジックな感情だろう。お散歩番組は、街の移り変わりを映し出す。街の近代化や再開発によって風景は様変わりし、失われたものに思いを馳せさせる。ただもう一方で、散歩の目線だから発見できる昔ながらの商店や職人技、食べ物の味がある。世の中がめまぐるしく変わるなかで、変わらないものにふれたときの郷愁をともなう安心感が、お散歩番組にはある。

もうひとつは、視聴者とテレビの関係性の変化である。

民俗学的な表現を用いるなら、ここ数十年来テレビは、いつも賑やかな祭りが繰り広げられる非日常的な「ハレ」のメディアであった。それに対し、普段着の魅力を感じさせるお散歩番組の隆盛は、テレビが日常的な「ケ」のメディアへと変わりつつあることを示しているのではなかろうか。

言い方を換えれば、視聴者とテレビは段差のない対等な関係になった。ナレーターと出演者が気軽に会話を交わす体のお散歩番組の定番的演出は、そうした視聴者とテレビの対等な関係を象徴しているように思われる。その点、テレビ史的意味でもお散歩番組への興味は尽きない。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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