天安門事件から世界が学ぶべき教訓--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

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 最終的には、開かれた政治体制を目指した趙紫陽は敗れ、既得権益を守ろうとする強硬派が勝利したのである。

では、趙紫陽が勝利していれば学生たちは撤退したのだろうか。

その確率は低い。学生や学生を支持する労働者たちは政府内の特定の派閥を支持する立場にあったわけではない。彼らには権威がなかったし、政治家でもなかった。彼らが求めたのは、“自由”以外の何ものでもなかった。これこそが、天安門事件から得られる主な教訓である。彼らが訴えたかったのは「中国人も他の国の人々と同じように、自由に話し、自らの指導者を選び、皆に平等に適用される法律を持つ権利がある」ということだったのだ。

89年6月4日、何千人という中国人が基本的人権さえも満たさない程度のほんのささやかな要求をしたことで殺害された。天安門事件の犠牲者たちを記憶にとどめる最善の方法は、彼らが西欧やアジア諸国で当然と考えられている自由の権利を持っていることを再確認することである。最悪の方法は、自由を強く求め続けたゆえに、命を失った学生を非難することである。

Ian Buruma
1951年オランダ生まれ。70~75年にライデン大学で中国文学を、75~77年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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