「嫌われる街」川崎のイメージを変えた消防士 風俗とギャンブルが同居する街の魅力とは

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5月の防災イベントのため、1月に多摩川河原で実際のイベントさながらのプレイベントを行い、それを動画にまとめて関係者にプレゼンをした

5月には登戸にある「二ヶ領せせらぎ館」と共同で、多摩川河原で防災スキルを学ぶ「TAMAGAWA CAMP」を計画。こうした活動で使える場を作ろうと、日進町にある築50年のビルをリノベーションし、地域のために開かれたスペースを作るプロジェクトも進んでいる(オープンは9月予定)。もちろん、農園フェスやグリーンバードの活動も継続。特に、グリーンバードは川崎駅だけでなく、新たに武蔵小杉や溝の口、二子新地などで始まる予定と、川崎市全域に拡大する勢いである。

活動の幅がこれだけ広がれば当然、田村氏一人で切り盛りするのは難しい。昨年6月には市民に還元できるイベントなど公益的な事業をビジネスとして手掛けるための社団法人「カワサキノサキ」を立ち上げた。

「街づくりのような堅苦しい言葉ではなく、カッコよく、街をデザインしていくような事業を考えています。川崎ではまだまだ人口が増えており、あと数年で150万人を超える。当然メリットもデメリットもあり、その解消は行政だけではできない。今までは誰かがやってくれると思っていたかもしれないが、これからはそうじゃない。自分たちでできることは自分たちでやろう、それが僕らの活動です」(田村氏)

ギャンブルも風俗も街のおもしろさになる

カワサキノサキ5人の理事には、障害者と健常者にある無意識の「心のバリア」をフリーにする活動をするピープルデザイン研究所の須藤シンジ氏や、川崎や各地で地域活性化にかかわる広瀬新朗氏などが名を連ねる。こうした個々の力に、田村氏の行動力や経験が加われば、川崎はまだ大きく変わりそうである。

ところで、面白いと思うのはこれらの活動で武器になっているのが川崎のこれまでのネガティブなイメージだという点。もともとイメージが良い横浜が変わるより、川崎が変わった方がそのインパクトは大きい。「悪いイメージがあるからこそ、それを変えてやろうと思うし、変える意味がある。考えてみれば川崎は過去にも公害を乗り越えてきた街。変わる可能性を秘めている。今は川崎なんてと卑下している人もいるが、そうじゃない。誇りに思おうと。僕たちはそのきっかけを作っているんです」と田村氏は話す。

確かに川崎には、ギャンブルも風俗も多い。しかし、その多様性こそが川崎の強みである。ピンクなイメージはセクシーな街と言えるし、外国人居住者の多さも川崎の面白さだ。暗いイメージの競馬場で明るく、楽しいイベントをすれば意外性がある、と見方を変えれば川崎には独自のコンテンツが豊富にあるのだ。

ただ、これまで川崎に住んでいた人たちはそれに気づかず、外からやってきた田村氏がその財産を発見した。川崎の幅広い年代の人たちが田村氏を応援しているのは、本当は多くの人たちが「我が街川崎」を見直すきっかけを求め、それを通じて誇りを共有したかったのではないかと思う。

本当は誰もが自分が住んでいる街が好きだと思いたい。そのきっかけを田村氏が作ってくれた。これまで「たかが川崎」「どうせ川崎」と言っていた人たちが、シビックプライドを持って川崎を語り、つながるようになれば、この街はもっと面白くなるはずだ。2040年の川崎市はどうなっているのか、期待したい。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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