「嫌われる街」川崎のイメージを変えた消防士 風俗とギャンブルが同居する街の魅力とは

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ゴミ拾いにしろ、農園フェスにしろ、成功したのは田村氏に人を巻き込む力強さがあったからこそだ。グリーンバードでは家族と始めたごみ拾いに毎回30名前後が集まり、中には首都圏以外からわざわざ川崎まで足を運ぶ人もいるほど。どこかの社長、ホームレス経験者、副市長――さまざまな人が肩書き抜きにして集まり、ゴミを拾う。

田村氏自身が、SNS等で参加を要請したことは一度もない。田村氏の発信する楽しそうな雰囲気に引き寄せられて人が集まってくるのである。

田村氏は言う。「サードプレイス的なフラットな関係に日常の肩書き、役割を忘れる解放感があるのかもしれません。ゴミ拾いと言いながら、拾うことよりも参加者同士が会話するほうが優先される集まりでもあり、私が意図しないところでコミュニティも生まれているようです」。

「敵は作らず仲間を増やす」が鉄則

巻き込むだけでなく、利害関係者への配慮も忘れない。農家が自分たちで販売を手掛けるようになるとJAは、あまりいい気はしないだろう。それを考え、田村氏は1回目のラジオ放送でJAのトップをインタビューしている。「一緒に川崎の農業を発信していこう」「自分たち敵ではない」というアピールである。相反する利害関係者がいる街での活動は、敵を作らず仲間を増やすような配慮も大事なのである。

ここへきて田村氏はさらに活動の幅を広げている。

今年1月27日には、武蔵小杉駅構内で「武蔵小杉駅マルシェカワサキノメグミ」を開催し、地元野菜を販売。実際、足を運んでみると、14時の開始10分で駅構内には長い行列ができ、異様なほどの熱気。ラジオなどを使った告知に加え、農園フェスを通じて市内で川崎野菜を扱うレストランや店舗が増えたことで認知度が大きく上がったからだろう。あまりの盛況ぶりに、JR東日本の担当者からも驚きの声があがるほどだった。

多種の野菜、果物が並んだ武蔵小杉マルシェには客が殺到。小泉農園の苺を目当てに並んだ人も

実際、開催に至るまでには日程や賃料調整などに時間がかかり、1年かかった。この場所の売り上げだけでは利益を出すのは難しいが、川崎のような農家の直販比率が低い街ではこうした生産者と消費者をつなぐイベントの意義はそれ以上のものがある。結局、この日はマルシェ終了1時間前に用意した野菜が完売。今後は毎月最終水曜日に開かれる予定で、武蔵小杉の新しい名物になりそうだ。

同月には、地域の食材と共に届けられる媒体で、田村氏も副編集長に名を連ねる「神奈川食べる通信」で、川崎市麻生区の伝統野菜「万福寺鮮紅大長人参」が取り上げられた。2月には「川崎経済新聞」を創刊。地元の埋もれた企業の情報を発信するなど、幅広い街の活性化を後押しする活動を次々と始めている。

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