──この本では戦中のゾルゲ=尾崎スパイ事件を詳述しています。
闇に包まれている部分もあるが、記者だった尾崎秀実をきちんと分析することで体質がはっきりわかる。戦後に、それまでの戦中、戦前の日本は「すべてが悪」というGHQ(連合国軍総司令部)の洗脳工作もあった。教科書がそれで統一され、影響を受けた知識人たちがおうむ返しをする。そうなれば、日本軍部と聞けば悪者という反応になってしまう。
大義が大事な記者集団になっている
──「パブロフの犬」とも。
記者として真偽を確かめることなく、ただ条件反射的な頭の働きになってしまっている。それは犬の条件反射の生理現象と同じだ。日本軍部と聞けば、吉田証言どおりととらえた。特に朝日新聞社の中では。マルクス主義ならマルクス主義の理論を尺度として、世の中を、そして世界を解釈しようとすればするほど、自らの視野を狭くさせているように思えてならない。
──大義より事実が大事と。
大義が大事な記者の集団になっている。最近の事例では昨年の安保関連法制の議論がある。批判のていを成していない。紙面を見ているかぎり、感情的な言葉が横行し、発生しようがないことまで盛り込んで、特に国会審議の間は社説から一般雑報まで、そんな記事で連日埋め尽くされるような状態だった。言論機関の紙面というより一種のアジビラ。慰安婦問題もアジビラに類する内容のキャンペーンだったのではないか。
──ソ連派と中国派もあった?
文化大革命時の報道がほかのメディアから批判され記者が袋だたきに遭ったが、当時の社長は文革万歳派であり、論調を握っている主筆でもあった。違う路線のものは書けなかったのではないか。また虐殺をした側にすれば、これは階級闘争を英雄的に実行しているのだとなる。人を殺すことも階級闘争の一つの手段だと考える人もいたのかもしれない。
──出世主義の裏返しですか。
OBからの献本に対する返書の中に、朝日新聞社で王道を歩く者、したがって出世する者は「左翼ポーズ」を取るのが最良の手段なのだという表現があった。そうすることで優秀な記者と認められ、出世すると。
──著書批判の声も届いているようですね。
禄をはんできた社に対して何事かとの非難は覚悟のうえ。読後感を記したOBの手紙の末尾は「朝日新聞への弔辞を読むと、言いようのない悲しみを感じます」と締めくくられていた。私自身は義憤がまだ収まらない。
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