過度の組織防衛に走る組織そのものに問題
従軍慰安婦をめぐる報道、東京電力福島第一原子力発電所の事故での吉田昌郎所長(当時、故人)の「命令」についての報道、そして池上彰氏のコラム掲載中止問題で、朝日新聞社は「創業以来の危機に陥っている」という。
本書は、現役の朝日新聞記者がこれらの問題をめぐる同社の経営陣の対処に加え、新聞記者そのもののあり方について書いたもので、その勇気ある行動には頭が下がる思いがする。
朝日新聞の従軍慰安婦をめぐる報道について、安倍晋三首相は第1次安倍内閣の頃から一貫してこれを攻撃し、そしてほかの新聞社や週刊誌なども攻撃を続けてきたが、当の朝日新聞社の経営陣がついにこれに屈し、そして吉田所長の発言についての記事、さらに池上コラムの掲載中止についても、責任を取って訂正、あるいは弁解の記事を掲載することになった。
これはまさに朝日新聞社の危機であると同時に、日本の新聞社、さらにマスコミの危機を告げるものだが、なぜ、こんなことになったのか。
朝日新聞社の経営者は組織を守るために「過度の組織防衛」に走っていると、この本には書かれているが、この組織そのものに問題があるのではないか。
「会社を守る」ことよりも、「反対意見に耳を貸さない」組織体質そのものを変えることが必要なのではないか。
新聞記者は情報源を秘匿しつつ事実の裏取りをしていくことが必要なのだが、記者にそれが欠けていることが露呈した。それがまさにジャーナリズムの危機をもたらしている。
これは単に朝日新聞社だけの問題ではない。組織が肥大化しているマスコミ全体にかかわることが、このような結果をもたらしたといっていい。そこにメスを入れる必要がある。
徳山喜雄(とくやま・よしお)
朝日新聞記者。1958年生まれ。ベルリンの壁崩壊など一連の東欧革命やロシア・旧ソ連諸国の解体、中国、北朝鮮など旧共産圏を数多く取材。著書に『安倍官邸と新聞 「二極化する報道」の危機』『フォト・ジャーナリズム』、共著に『新聞と戦争』など。
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