朝日新聞「吉田調書報道」の真相とは?

隠された原発情報との闘い

現在進行中の問題に深くかかわる事故検証

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事故渦中の東京電力福島第一原子力発電所で「東電社員の9割が所長命令に違反して撤退した」という報道によって、激しい朝日新聞バッシングが起き、同社が記事を取り消し、社長が辞任したことは記憶に新しい。

本書は、同記事は評価が分かれる面があるが、誤報や捏造ではなく、会社が危機管理のために、第一線の記者と彼らのスクープを「生贄」にしたのだと指摘する。この見方にはおおむね共感できる。ただ、評者の友人の朝日新聞の記者は「あの書き方は“山っ気"がありすぎで、やってはいけないこと。驕りがあったのではないか」と話す。

そのほか、政府が福島第一原発の1号機がメルトダウンしていることを知りながら公表しなかったために多くの人々が無用の被曝をしたことや、朝日新聞を叩かせるために官邸が吉田調書をほかのメディアにリークした可能性もあることなど、政府の「本性」について厳しい指摘をしている。

本書のタイトルには「吉田調書報道」とあるが、後半、東電の津波対策に費やされている。福島第一原発の事故対応において、武藤栄副社長(当時)の状況の把握ぶりや献身的な姿勢は非常に印象的だった。一方で、本書を読むと、残念ながら武藤氏も、こと津波対策に関しては判断を誤ったとしか思えない。一応決着がついてしまった吉田調書問題と違って、津波の問題は武藤氏ら東電元経営陣の刑事告訴や原発再稼働など、現在進行中の問題に深くかかわってくるので重要である。

本書は、原発差止訴訟の弁護士らが書いたもので、視線は厳しい。しかし、福島原発事故は未曾有の重大事故であり、批判的な視点から検証されてしかるべき問題だ。評者もここ数年、原発関係の作品を書いてきたが、本書を読んで認識を改めた。

著者
海渡雄一(かいど・ゆういち)
弁護士。1955年生まれ。もんじゅ、六ヶ所村核燃料サイクル施設、浜岡原発、大間原発など原子力に関する多数の訴訟を担当。
河合弘之(かわい・ひろゆき)
弁護士。1944年生まれ。浜岡原発訴訟、大間原発訴訟の弁護人のほか、中国残留孤児の国籍取得を支援する会会長を務める。
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