認知科学はイノベーションにかかわる
──認知科学はイノベーションに大いにかかわるのですね。
イノベーションを起こせ。産業界で至上命令のごとく言われる。だがイノベーションは、創造やひらめきと同様に、突然生み出せるものではない。
ひらめきを伴う問題解決について研究を続けてきて、現実は「正解」と全然できない状態とをうねりながら行ったり来たりする、つまり試行錯誤があったうえだとわかった。ダメだったものが急にうまくいく、あるいはマネジャーや、それこそ社長を代えればうまくいくというのはまさに夢であって、現実は違う。この「揺らぎ」を体験している人はその間に進歩しているのを実感できない。揺らぎつつ進化するものなのだ。だから、現場の苦労まったくなしでマネジメント技術だけでイノベーションを起こそうとしてもできない。失敗や苦労、部分的な成功を共有し、積み重ねていくことをしないと絶対にひらめきは訪れない。
──突然訪れるわけではない?
パズルで例えたい。たとえば4つのピースを組み合わせてT字形にするパズルをやってもらうと、普通は正解に至るまで数十分かかる。正解に近づく置き方をする回数を時間ごとに数えてみると、初めはもちろん少ない。あるときぐっと正解に近づいたりして、またダメになる。そういうことを何度も繰り返す。人が何か新しいものを発見する背後には、思考の進化や発展があり、試行錯誤状態の揺らぎがつねにあることに本人は気づいていない。
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