経営技術では「イノベーション」は起こせない 「揺らぎ」の体験こそがひらめきを生む

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──ノーベル賞受賞者はそれをわかっている?

細菌学の開祖のルイ・パスツールの言葉に、「偶然はそれを受け入れる準備ができた人にのみ訪れる」という名言がある。偶然を「創造的なひらめき」に置き換えるとわかりやすい。ノーベル賞に輝いた人たちは「偶然です」とよく言う。同じ偶然に接しても、それを研究の決定打として取り込んでいけるかどうか。それ以前にすごい苦労を経て失敗を重ねたという地盤があったから、その偶然の事象の意義がわかるのだ。

子供も「文脈依存性」を持っている

鈴木宏昭(すずき ひろあき)/1958年生まれ。東京大学大学院単位取得退学。博士(教育学)。東京工業大学助手、英エディンバラ大学客員研究員を経る。認知科学が研究領域であり、特に思考、学習における創発過程の研究を行っている。日本認知科学会、人工知能学会、日本心理学会、Cognitive Science Society各会員。

──子供の成長でも同じなのですね。

子供も思考の発達における揺らぎや「文脈依存性」というものを持っている。発達の初期においてもはっきりは出ないものの、発達のワザをのぞかせる。その揺らぎがあるから次の段階に行ける。突然ひらめきを得たかのごとく、次の発達段階に飛躍することはない。

──記憶力ではつながりの要素が大きいと。

もうだいぶ前のことだが、娘が保育園児だった頃、ポケットモンスター第1世代151匹をどれだけ覚えることができるか競ったことがある。完敗だった。

記憶力というと、頭の中に「大きい箱」を持っている人が優れていると考えがちだが、そうではない。精緻化や、意味あるひとまとまりの情報にチャンキングすることで、限られた記憶スペースを有効に使うのが決め手だ。例え話で言えば、旅行バッグに荷物を詰める作法に似ている。畳むなどすると同じバッグでも余裕ができる。記憶も情報につながりをつけてコンパクトにすればたくさん入れることができる。

──認知科学は学際的ですね。

認知科学には人の知性を明らかにしたいという明白な欲求がある。知性の解明は群盲象をなでる感じで、自分が触れるところと、ほかの人、たとえば工学者や哲学者、あるいは脳科学者が触れた印象はどうしても違ってくる。それを情報という共通言語で語らい合う。それが認知科学のとても面白いところだ。

ほかの学問は専門性を高めるため、これが○○学だという感じで、同じ方法を使わないかぎり認めない。それでは面白いアイデアを初めから遮断してしまう。認知科学ではそういうことがまったくない。

認知科学は平たく言えば、脳内でという意味ではないが、頭の中で人はどう情報を受け取って、それをどう加工し、そしてどうやって答えを出したり行動したりするのか、を解明する。その見えないプロセスに接近する方法は、認知科学が確立する以前にはほぼ何もなかった。

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