「民主主義」ではなく「防衛」選んだ米国の覚悟--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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 ブッシュ前大統領は民主主義の普及をアメリカの外交政策の中心テーマに据えたことで知られている。そうした論理を展開したのは、彼が最初ではない。ウッドロー・ウィルソン大統領以来、ほとんどの大統領が同様の発言を行っている。

クリントン国務長官が今年の初め、議会でアメリカ外交の“三つのD”について証言し、注目された。三つのDとは防衛(Defense)、外交(Diplomacy)、開発(Development)のことである。その中に民主主義のDは含まれていなかった。それはオバマ政権の政策の変更を示唆するものであった。

クリントン大統領とブッシュ大統領はいずれも、民主主義が安全保障にもたらす影響について頻繁に言及していた。両大統領は、民主主義国家同士が戦争することはまれであるという政治学の研究成果を引用していた。しかし、もう少し詳しく研究の成果を説明すれば、リベラルな民主国家はお互いに戦争することはないが、その場合のリベラルとは単に選挙が行われている以上に、憲法を重視するという事実が重要であるということだ。

多くの批判者は、ブッシュ政権は逆に民主主義の普及という思想を損なったと見ている。ブッシュ大統領がイラク侵攻を正当化するために民主主義を引き合いに出したことで、民主主義という言葉はアメリカの特定の政策と関連づけられ、帝国主義という意味合いを持つようになった。またブッシュ前大統領の誇張した発言は実際の政策と矛盾し、偽善者という批判を招くことになった。

しかし、ブッシュ政権の政策の失敗に過剰反応するのは危険である。民主主義を成長させるのはアメリカに課せられた責務ではなく、民主主義の発展はさまざまな形をとりうるのである。経済が発展し、近代化が進めば、人々は政治に参加することを求めるようになるものである。民主主義は後退することはない。

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