『日本の難点』を書いた宮台真司氏(社会学者、評論家、首都大学東京教授)に聞く
社会学の先端の成果を踏まえた硬派の「現代を知り、考える書」が広く読まれている。「社会のデタラメさを自覚したうえで、現実にコミットメント(深い関わり)せよ」と説く、その急所(クリティカルポイント)中の急所を聞いた。
--売れ行き好調の理由を自己診断してください。
広告戦略が功を奏しているのは間違いないが、ニーズにマッチしているのだろう。
自分自身の置かれている逆境を理解することに対する関心が高まっている。娯楽や暇つぶしにしかならないものは横において、なぜいま自分たちはこういう状況にあるのか、を知りたい。それは大学の、あるいは私塾の学生をみてもそう思える。
確かに勉強ブームの一環といえるが、昔のように、お勉強自体が好きなので知識で楽しく遊ぼう、というのではない。むしろ理不尽のよってきたる所以を理解しようとする。
本の出版時期について強い要求を出して4月中にとお願いをした。総選挙のあとの刊行はキツいなということで。選挙の前なら、価値観の物差しに関心が向く。そういうことの評価にはこういう物差しを使ったらどうかと言いやすい。
--最近は売れる著者が集中する傾向があります。
たとえば人の名前で引っ張るタイプの本は、自分に自信がない人が読む本。自分で評価する自信がなければこの著者はいいという評判を頼るしかない。投資と同じだ。判断する能力のある人はデータをみて自らどうするか決めるが、多くの投資家は評判に頼る。それもブランドだ。これと同じことが生じている。
いまTVでもラジオでも、NHKの視聴率、聴取率が上がっていく動きでわかるように、“本物ぽい”ものが探されている。もちろんNHKもブランドでないか、宮台真司もブランドではないかといわれればそのとおりだが、人々のブランドに対する要求の形が変わってきている。
--全体的には売れる本が少なくなり、出版界は衰退の危機にあります。
マスメディアが生き残るには二つの方法しかない。一つは、マーケットセグメントをきちんとしたうえで、高額所得者向けの媒体に仕立て上げていく。これによってスポンサーにインセンティブを与えることができる。