雑誌が読まれないのは「つまらない」からだ 敏腕編集者が語る紙媒体の正しい生き残り方

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もちろん『ポパイ』『ブルータス』など一時代を築いた雑誌での経験は大きいと思う。周囲を気にせず、読者層を想定せず、マーケットリサーチはしない、が鉄則でしたから。知らない誰かのためじゃなく、自分のリアルを追求しろと教えられた。

自主制作誌活況の一方、既存誌が衰退するわけ

都築響一(つづき きょういち)/1956年生まれ。上智大学英文学科在学中から雑誌『ポパイ』『ブルータス』で現代美術、建築、デザイン、都市生活などの記事を担当。97年『ROADSIDE JAPAN』で写真家以外では初の木村伊兵衛賞受賞。『TOKYO STYLE』『珍日本紀行』『夜露死苦現代詩』『東京右半分』『独居老人スタイル』ほか著書多数

──雑誌がつまらない、総合デパート化してる、とお嘆きですね。

雑誌作りはそもそも会議には合わない仕事です。会議って、星四つ以上の企画を話し合うってことじゃないですか。星一つだけど面白いかもっていう企画は挙がらない。雑誌全体の売れ行きが悪くなってるから余計そうなるのかもしれない。

でも既存の雑誌がダメな一方で、自主制作雑誌は売れてるわけです。即売会などはすごい人出で、欲しい本をゲットするために夜中から並ぶ。制作者だって売価1500円で1200円の儲けとして、1万冊売れたら1200万円そのまま入るわけですから、数%の印税もらうよりずっといい。人気漫画家でも連載からコミケに移行する人が大勢いるわけだし。でもそっちの市場を出版業界は見ようとしない。雑誌が売れないのを本を読まなくなったからとか、携帯代に取られたからとか言うのは簡単。でも違うと僕は思う。面白ければみんな買うでしょう。

──確かに、コミケとか現象としての扱いにとどまっているかも。

たとえば写真雑誌が没落する一方で、インスタグラムにアップロードされる写真の数は1日1億点以上です。実はみんながすごく写真を撮ってる時代なわけですよ。写真の表現は確実に広がってる。既成市場が縮小してるだけで、表現欲は逆にものすごく増えてるわけです。でも業界は既成の市場しか見たくない。

──従来の経験値でやってきたプロはつらくなっていきますね。

そう思いますね。その先の奥は深いけど、入る敷居は低くなった。それはすごくいいことです。プロの作った障壁が崩れ、意欲さえあれば始められる。デジタルの本質ですね。

雑誌は雑誌で面白いことはいっぱいできると思う。たとえばWebとどう連動するか。僕は米国の『ナショナルジオグラフィック』電子版を購読してるけど、メチャクチャよくできてる。年2000円程度で、スムーズに動画が入りどんどんリンクしていく。手元に保存したい人はその印刷版を買えばいいので、使い分けができる。今の日本のメディアはまず紙媒体があり、その補完としてWeb版がありますよね。でも逆だと思う。Web版のほうがボリュームに制限はなく、アップデートもできる。

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