雑誌が読まれないのは「つまらない」からだ 敏腕編集者が語る紙媒体の正しい生き残り方

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僕のメルマガは写真も多くて大容量ですけど、読者の半数以上は携帯で読んでます。大きなボリュームのものを携帯で読むことに若い人は何の苦痛もない。Webで大量に書いて、その要約版が雑誌というようにこれからなっていくと思いますね。

底辺広がるラップこそ、若者が心情吐露する場

──ところで、都築さんの最近の関心はどのあたりですか?

去年の川崎中1男子殺害事件の後のテレビで、友人たちが少年をしのんで夜中の公園でラップをしてる番組を見たんです。ああこういうことなんだな、と思いましたね。それくらい今の子にとってラップって日常のことなんです。地方に行って夜中にコンビニの前でみんなたむろしてると、流れてるのはAKB48でもEXILEでもなくて、地元のラッパーが自分で作ったCDだったりする。昔はみんなで紅白歌合戦を見たように、業界とみんなとが一致してた。でも、もうそうではないんですね。業界の中だけ見てると、そうした日常の風景がわからなくなっちゃうんです。

「高校生RAP選手権」っていうのがあって、全国各地から集まって技を競うんだけど、大会場が超満員になっちゃう。引きこもりの子とかうつの子とか在日の子とか、いろんなバックグラウンドの子たちが自分たちの経験を歌い合う。こういうイベントはほかにもいっぱいあって、ラップはもう一部の音楽なんかじゃないですよ。みんなが本当に聴いてる音楽と業界が聴かせたい音楽が違ってしまった。

──ヒップホップ、ラップには以前から共感されてましたね。

『圏外編集者』(朝日出版社 1650円+税/255ページ) 書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

ラップは今の子たちが自分の気持ちをいちばんダイレクトに出せる媒体ってことです。昔よりもおカネのない子が全然多いから、バンド組むのはもう難しいんですよ。ラップだったらラジカセ一つか、ラジカセすらいらない。声がいい、歌がうまい必要もない。不満をためた子たちの心情を最も表してるのがラップだと思う。だから興味があるんです。

ところが情報を得る場所が一つもない。音楽雑誌には載ってない、専門誌もWebサイトもない。まさに「圏外」です。ライブ情報を探すにも、クラブでチラシ集めたり、そういう子たちのツイッターをフォローしてようやく。彼ら自身、既成メディアを当てにしてないし、レコード会社に雇われようとすら思ってない。

メディアは無視してるけど、実はみんな好きなんだということがこれほどあると、自分のメルマガで少しでも取り上げられるのはうれしいですよね。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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