私は常日頃、医師に必要な能力・資質として、以下の8つを挙げ、学生を指導している。
そして、根底にあるさらに重要な、幹となる資質は「公共性・公共心」だ。これは「正義」を追求する心と言ってもいい。具体的に言うと、目の前に困窮している人、差別を受けている人、不公正な扱いを受けている人がいる場合に、その不公正を正す。そんな心構えが必要なのである。
1950年代の「アメリカのリアル」に思いを馳せてみる
そういう観点を踏まえ、さらに1950年代のアメリカという制約を考慮して本問を見ると、この少年の目の前に広がるのは「2つのアメリカの様相」であると、仮説を立てられるのではないか。
まず1つは、戦後5年以上経ち、経済が隆盛で急成長しているアメリカである。1950年代のアメリカは、第2次世界大戦の戦勝国として黄金期を迎えていたはずだ。白人の一般家庭には、テレビ、冷蔵庫、食洗器、大型自動車などが普及し、「豊かなアメリカ」の顔があったことを想像できる。
しかしながら、その繁栄の一方でもう1つの顔があった。私が強調したいのはむしろこの陰の部分である。つまり、この少年の目には、アフリカ系アメリカ人を中心とした非白人人種が、貧しさと困窮の中で暮らしている姿が映っているのだと考えることができる。
駅の待合室、水飲み場などの公共施設には「白人専用」や「黒人専用」と記載された表示板が掲げられ、バスの座席は前が白人用、後がそれ以外といった具合に分断、白人の席に空席があろうと、白人でなければ後方に立つことを余儀なくされる……。それが当時のアメリカのリアルだ。
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