その背景には、昨年5月にブラジルで最初のジカ熱が報告された後、今年1月23日までの9カ月間に、21もの国・地域に急速に感染が拡大していることが挙げられる。
ジカ熱を引き起こすジカウイルスは、フラビウイルス科フラビウイルス属に属するウイルスで、デングウイルスや日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルスと同じ部類に属す。1947年にウガンダのビクトリア湖近くにあるジカの森から発見された。その後、1952年にウガンダとタンザニアで人間への感染が確認されており、これまでにアフリカ、アメリカ、アジア太平洋地域での伝播が確認されている。
ジカウイルスは、ヤブカ属ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されることが確認されている。
ネッタイシマカは、日本には常在していないが、ヒトスジシマカは秋田県及び岩手県以南の日本のほとんどの地域に存在し、国内では5月中旬~10月下旬頃までの間、主に日中、野外で活動する。幼虫は、空き缶やペットボトルに溜まった水、放置されたブルーシートや古タイヤに溜まった水などによく発生するため、ジカ熱への感染は、墓地、竹林の周辺、茂みのある公園や庭の木陰など、都会・田舎を問わない。
今のところ、ジカ熱に対するワクチンや治療薬は存在しない。そのため、流行地域を訪問する際にはできるだけ肌を露出せず、虫よけ剤を使用すること、また蚊帳の使用など、蚊に刺されないように注意することが主な予防策となる。特に妊婦に対しては、今年1月には米国疾病予防管理センター(CDC)が、流行地域への渡航を控えるよう警告を出していることから、不急の用事がない場合は流行地域に行かないという検討も必要だろう。
蚊の繁殖を抑える工夫が必要に
また、ジカ熱に有効なワクチンと治療薬の開発という中長期的な対策に加えて、国内での流行に備えるという観点からは、ジカウイルスを媒介する蚊の駆除も有効な予防の一つだ。殺虫剤の使用のほか、ベランダの植木鉢の受け皿など、蚊の繁殖地となり得る水溜りを無くすなど、明日からできる身近な対策もある。
そしてこれは、2014年に日本でも流行したデング熱対策にもなる。さらに近年では、遺伝子操作を行った蚊を放出し、通常の蚊を減少させる取組みなど、革新的な取組みにも注目が集まっていることにも触れておきたい。
ジカウイルスを媒介する蚊のアメリカ大陸における広い分布と、世界を往来する人々の流動性とが結びつき、ジカ熱が第二のエボラ出血熱となり得る可能性はゼロではない。しかしながら、私たちは先のエボラ出血熱の流行から多くの教訓を得た。世界や国レベルでは、グローバル・ヘルス・セキュリティという、安全保障という観点から保健医療課題を見直し、感染症の脅威から世界を守る体制を整えようとしている。
そして何より、国や世界を構成する私たち一人ひとりが、過度に未知の脅威に怯えるのではなく、正しい情報を収集し、予防、対策すれば、ジカ熱を含む新たな脅威をも克服し得ることを学んだはずである。
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