したたかイー・アクセス、新市場を開拓した通信ベンチャーのこれから
当時、混迷の長期化を懸念する関係者は少なくなかった。2008年1月、ADSLで同業のアッカ・ネットワークス(以下、アッカ)に対し、徐々に同社株を買い進め、ついに筆頭株主に躍り出たイー・アクセスは、取締役退任を求める株主提案を突き付けた。同社の企業価値・株主価値向上が目的と説明していたが、アッカ側の拒否、自社株買いをめぐる対立など、状況はたちまち視界不良に陥った。
それがどうだろう。アッカ側はその後経営陣を刷新、イー・アクセスと対話を重ねた。08年7月、両社は資本業務提携を発表。9月にはアッカがイー・アクセスの連結子会社となり、09年6月に吸収合併の運びとなった。事態はトントン拍子に収束していったのである。
アッカへ「ラブコール」7回 不況が追い風のADSL
後日談がある。イー・アクセスのエリック・ガン取締役(イー・モバイル社長)のノートには『A7』とタイトルが書かれていた。「A(アッカ)1から始まって今回の話し合いは7回目。一緒になろうと、これまで何回も提案していたんです」。
つまり、交渉は7回に及んでいた。千本倖生(せんもとさちお)・同社会長は言う。
「ADSL業界で最大プレーヤーはヤフーBB(ソフトバンクBB)。ここに対してどう競争するのかが大事。存在感を強くしたいと考えていた。松下幸之助さんに教わったが、事業というのはしつこくやんなきゃ。もうダメだと思ってもまだやる」
ADSLは固定ブロードバンドインフラの一つで、08年9月末時点で契約者は1200万件。08年にFTTH(光ファイバーサービス)に抜かれ、契約者数は減少傾向にある。が、昨今の景気悪化は、後退に一定の歯止めをかけそう。アナリストの日興シティグループ証券・山科拓ディレクターは「賃貸はFTTHよりADSLが主力。住宅着工やマンション販売不振で恩恵を受けるのはADSL。さらにADSLは償却が終わって値下げ余力があり、価格競争力が増す」と指摘する。
アッカの08年12月期業績は売上高299億円(前期比約15%減)、営業益26億円(同約31%増)。減収だったが、通信設備の仕入れ費削減、倉庫・物流システムなどの統合効果で利益は改善した。もともとイー・アクセスという会社は「1円の節約は1円の利益」が合言葉で、コスト意識の高さで知られる。アッカには割高な費用案件が多くあったとされ、統合効果は如実に出る。
08年のアッカとの業務提携会見で、千本会長は「アッカさんの優秀な人材をモバイルに投入したい」と語った。そして実際に、アッカ社員の多くを同事業に投入している。
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