前野:脳神経学も研究が進み、ロボットの心についての研究も進展しつつあります。私の場合、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムを用いて、ロボットに心を埋め込むための研究をしていった結果、「心って、思ったほど複雑じゃないな」と思うようになりました。そもそも心は幻想なんだ、と理解すると、とてもラクになります。
井上:心理学者は意外と主観的な解釈が多い中、前野先生の研究は「幸せはエビデンスが取れる」という点が、まさに目からウロコでした。
技術を活用した客観的データ
前野:われわれも「いい仕事したな」と思っていますよ(笑)。今は、笑顔測定の研究もしています。
ソニーやオムロンから笑顔測定器が出ています。たとえばオムロンさんの「スマイルスキャン」は100点満点で笑顔を測定します。口角だけ上げて測定するとどうなると思いますか? いい点は出ないんです。口角だけ上げて笑ったふりをしても「全然うれしくない顔」と判断されるんですね。対して、本当にうれしいことがあって、本物の笑顔を測定すると「100点」に近い点が出ます。機械でもこれだけわかるんだから、人間はもっと細かい差を感じていると考えるべきだと思います。
井上:割りばしをくわえて口角を上げるだけで、脳のフィードバック効果で本当に気分が上がるといわれたりしますが。
前野:口角を上げないよりは上げた方がいいと思いますが、偽の笑顔は機械判定では低得点です。さきほどのピグマリオン効果と同じで、相手が本当に笑っているかいないかは、深層心理で伝わっているんじゃないでしょうか。ほかに、横隔膜の振動で幸せ度を測定するという研究もあります。笑うと振動しますよね。これを1aH(アッハ)、2aHと名付けている。
日立製作所の矢野和男さんは、振動センサーをポケットに入れて、その振動の周波数を解析し、特定のパターンがあると幸せな状態にある、という研究をしておられます。技術による幸せの解明されているんです。声の質や量で幸せを測るソフトもあります。幸せかどうかの客観的なデータが取れる時代になってきました。しかし、たとえば1aHが10aHになると10倍幸せかというと、やはり主観的な幸せとの相関関係と比較しなければならない。その課題は残っていますね。
前野式「ハッピーワークショップ」とは
前野:われわれが行っているワークショップをご紹介しましょう。3人一組になり、4つの因子を順番に鍛える、というものです。時間は3時間くらいで終わるものから1因子3時間×4因子で12時間行う場合までさまざまです。週に1回で4週という場合もあります。
1.「やってみよう!因子」
かつて自分が成し遂げたことを3つ書く。それを3人でシェアし合う。次に、今、持っている目標を3つ書き、シェアする。最後に未来にやりたい目標を、小さいものから壮大なものまで3つ書いてシェアする
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