「品のないクレーム」に悩むゴミ清掃員達の哀愁 「俺らは人目についちゃいけねえ仕事だからよ」
「おい、ゴミ屋どけよ!」と言われたことがある。ゴミ清掃車が道を塞ぎ、通り抜けられないことに腹が立ったのだろう。そんな場所に限って細かく集積所がある。待たせてはいけないと思って、ペコペコしながら、なるべく急いでゴミを回収する。心から悪いなぁと思うも、この1本道を抜けるまでは仕方がない。休まず手を動かし続ける。
「おい、ゴミ屋どけよ」
チラッと後方を見ると、小さな渋滞となっている。痩れを切らした人が車から降りて、僕らのところまでやってきて直接文句を言った。
「おい、ゴミ屋どけよ。ゴミ屋がなんで俺を待たせるんだよ。ここに並んでいる奴、全員そう思っているぞ!」
僕はいつも、「すみません」とは言わず、「ご協力ありがとうございます」と言うように心がけているが、ピンチ。いつも言っていないので、とっさに「すみません」という単語が出てこない。先輩清掃員が、僕の後ろで「すみませんって言え」とささやくので、「すみません」とオウム返しをして頭を下げた。「船場吉兆かよ!」と言いそうになった。危なかった。
僕が今ここで文章を書けているのもあのとき、そう言ってやり返されずに済んだおかげだ。この場合、誰にやり返されるのかわからないが、目の前の山賊のような男か、ゴミ清掃界のささやき女将にメッタメタにされていただろう。
僕はここでの山賊の言葉を、「ゴミ清掃をやるような連中が一般庶民を待たせるなんて、どういうつもりだ?」というような意味にとらえた。それはそうと、先輩清掃員も気づいたのなら自分で謝ればいいのにとも思ったが、あれだけブチ切れている人を目の当たりにするとめちゃめちゃ怖いので、ささやく気待ちも少しわかる。あれは山賊の中でも相当ランクの高い山賊だと思う。
こういうことは年に数回ある。山賊とは別にこういう人もいた。
「おう、ゴミ屋、おおう、ゴミ屋よおー、どこに目をつけてるんだよ。ここにゴミあるだろうがよおお!」とガラガラヘビでも現れたかと思ったら、住民だった。
こっちは粗大ゴミ回収に伺い、品物が見つからないので、チャイムを押しただけである。相撲で優勝のかかった大一番の力士のような気迫だった。時代が時代なら、鳴かないホトトギスを殺しまくっているのだろう。やはり日本は拳銃の所持を絶対に認めてはならない。当然、借りた金は踏み倒すタイプの人間だが、仕事なら接触しない訳にはいかない。虎の尾を踏む覚悟で話しかける。いや、粗大ゴミどこですか?って聞いただけだよ。
ハリセンボンの卜ゲが出ているような背中を見ながらついていくと、その組大ゴミはゴミボックスの隙問に置かれた板であった。いやいやいや、絶対にわからない。これに気づく清掃員は、全国探してもきっと皆無。ゴミ清掃事業の長い歴史の中で1人正解できたかどうかであろう激ムズ問題である。
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