財務省 榊原英資著 ~「悪役でいい」と割り切る
かつて「ノートリアス・ミティ(悪名高き通産省)」が国内外で脚光を浴びた時代があった。悪名か令名か、人によって評価はさまざまだが、いま霞が関で最も大きな注目を集めているのは財務省であろう。大蔵省で財務官を務め、「ミスター円」と呼ばれた著者の手になる本書には、内側から見た財務省の姿が興味深い形で描かれている。
財務省は5局(主計・主税・関税・理財・国際)と大臣官房からなる内部部局のほかに、外局として国税庁を、地方支分部局として税関と財務局を持つ、職員数7万の巨大組織だ。いずれの部局にも大きな権限があるが、財務省が「省庁のなかの省庁」であるのは、予算編成権と税制の企画・立案・執行の権限を有していることによるところが大きい。
毎年度の予算と税法は、国会での審議と議決を経て決定されるため、財務省の仕事は必然的に「政治的」なものとならざるを得ないが、こうしたもとでは政治との距離、間合いのとり方が大きな関心事となる。本書によれば、この点における財務省のスタンスは、大臣などの政治家を表舞台に立たせ、自らは黒衣に徹して舞台回しを行うことで政策を前に進めていくというものだ。
このような対応は、時として「財務省支配」といった批判を招くこともあるが、「財務省は悪役でいい」と割り切っているところがあると著者は言う。そういえば、かつての大蔵省では「ワル」というのは最高の褒め言葉であり、尊敬と愛着を込めて「ワル野ワル彦」と呼ばれた大物次官もいた。
著者自身が冒頭で断っているように「親財務省」のバイアスがあることは否めないが、その点を割り引いてもなお、本書は財務省を知るための優れたガイドブックとなっている。
さかきばら・えいすけ
青山学院大学教授。インド経済研究所理事長。1941年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。大蔵省に入省。米ミシガン大学で経済学博士号取得。国際金融局長、財務官などを歴任。退官後、慶応義塾大学教授、早稲田大学教授を経て現職。
新潮新書 714円 191ページ
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