博報堂を辞め、プロレスに挑む男が見た現実 「好きなことで、生きていく」のは甘くない

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「プロレスブーム再来」が話題になっている。新日本プロレスを始め、一部の団体のチケットは取りづらくなっている。「プ女子(プロレス女子)」なる言葉も流行っている。しかし、これは業界の雄である新日本プロレスを始め、一部の団体と選手を中心としたブームだ。良くも悪くもプロレスは多様化し続けている。

特に1990年代以降、インディーズ団体など小さな団体が増えた。副業、いや趣味でプロレスラーをする者さえ現れた。今から25年前、『週刊プロレス』の「プロレス名鑑」企画に載っているプロレスラーはレフリーやスタッフ、女子プロレスラーを入れて180名程度だった。先日、同誌に掲載された同企画には528人のプロレスラーが掲載されている。

ブーム再来の中で増えた「プロレス希望難民」

もっとも、これはページ数の関係から絞ったものであって、すべてを網羅しているわけではない。以前よりもプロレスラーになるハードルはあらゆる点で下がっている。しかし、「プロレスラー」になれたとしても、個々人が理想とするプロレスラー、エースと呼ばれるプロレスラーになれている人はどれだけいるだろうか。プロレス希望難民とも言えるレスラーも増えてしまった。これもまた「プロレスブーム再来」などと言われる中、起きている現実である。

そして、ここ数年もてはやされた「自由な働き方」ブームと、私には重なって見える。会社を辞めて何かを始める若者が、ネット上で何度話題になったことだろう。大企業をいとも簡単に辞めて話題のベンチャーに身を投じる若者、起業や社会貢献活動など自分が好きなことを始める若者、地方移住などに活路を見出す若者。「大企業を辞めました」エントリーを見かけたことも一度や二度ではない。

厳しい就活を乗り越えて入った企業を辞める若者は、むしろ珍しくない。もっと言うならば、学生時代から何かを始めて評価されることだって、簡単になった。いかにも若くして何かを起こした人はすごい人に見えてしまうが、実は世の中全体で選択肢が増えていて、何か新しいことを始めやすくなっているだけだ。むしろその後、見えないところでもがき苦しむ社会になっているともいえる。

はたして彼ら彼女たちは理想の生き方、働き方を手に入れることができているのだろうか。報われているのだろうか。プロレスという道は特殊に聞こえるかもしれないが、有名大学を出て、大企業を辞めて、独立したりベンチャーで働いたりして、活躍しているふうに見えて、実際は日々思い悩んでいる若者たちと、三富の姿は重なる。

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