消費税が日本を救う 熊谷亮丸著 ~早期の財政健全化に消費増税が適切と判定
国債金利より名目成長率が高い状況が続けば、理屈上、増税を行わなくても、税の自然増収で財政再建は可能となる。成長率が金利より高いことを前提に財政運営を行うことをハーバード大学のマンキュー教授は「ディフィシット(財政赤字)ギャンブル」と呼んだ。
ギャンブルとしたのは、成長率と金利の関係が一定ではないためだが、歴史的に見て、潜在成長率が高い場合や公的債務が小さいときには、ギャンブルの勝率は低くはない。しかし、現在の日本では、公的債務の対GDP比は200%に達し、1990年代以降の実質成長率は平均で0・9%にとどまる。ギャンブルの勝率は相当に低下しており、成長戦略に懸け、日本経済を財政危機のリスクにさらすのは大きな誤りだ。
本書は、真の政治リーダーは保守的な前提の下で、財政健全化を目指さなければならないと論じる。「成長戦略や歳出削減が不十分だから増税は認められない」という主張は、先送りの論理だと断じ、早期の財政健全化の必要性を説く。税目については、水平的公平性の確保や世代間格差の是正、経済活動に対する中立性、高齢化社会における安定財源の確保、といった点から、消費増税が適切だと論じる。証券優遇税制の延長の必要性を論じた記述を除くと、評者も基本的に賛成する。財政や社会保障制度の持続可能性に対する疑念が個人消費を抑制し、信頼に足る改革がむしろ成長を高める、という主張については、わが意を得たりである。
財政健全化には社会保障費の削減が不可欠という点には同意するが、本書の年金改革案だけで果たして十分だろうか。団塊世代が75歳を超えると、医療費膨張がより大きな問題になる。具体的な制度改革案については、次回作に期待したい。
くまがい・みつまる
大和総研チーフエコノミスト。1966年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。日本興業銀行調査部などを経て大和総研入社。エコノミスト、為替アナリストの人気投票で計7回1位を獲得。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーター。
日経プレミアシリーズ 935円 300ページ
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