決断できる日本へ 3・11後の政治経済学 中尾茂夫著 ~独自の歴史観に立って現代社会論を展開

決断できる日本へ 3・11後の政治経済学 中尾茂夫著 ~独自の歴史観に立って現代社会論を展開

評者 奥村 宏 会社学研究家

 3・11以後の日本はいったいどうなってしまったのか。「原子力ムラ」に群がる学者たちの無節操ぶり、権力側に立った報道しかしないマスコミ、そして機能不全に陥った政府。これらを見るにつけ,暗澹たる思いにかられる。そこで著者はこのような状況に対して、独自の診断を下していく。

いわゆる「経済学者」や、著者が専門とする金融論の多くの学者たちと違って、この著者は自分自身の歴史観を持っており、それによって現状にメスを入れる。会社を共同体と考える会社観は崩れ、そしてマネーと権力が結びつくことによって格差が拡大し、一億総中流意識も崩れていく。欧米に学ぶだけという姿勢が日本の悲劇を生んだのではないか、と言う。

このように著者は独自の歴史観に立って、日本の近代を批判するとともに、現代社会論を展開する。

金融論が専門で多数の本を書いている著者だけにマネーと権力の関係を論じているところは中でも説得力がある。

さらに著者はその歴史論、現代社会論を発展させることによって、著者が今住んでいる東京、かつて住んでいた大阪、さらに著者の生まれ故郷である長崎を比較して政治経済学的風土論を展開していく。

そこでは権力や権威に反発する姿勢から風土論を展開しているのだが、それというのも権威主義一辺倒の日本型システムが行き詰まったこと、それこそが3・11ではっきりと現れているではないか、というわけである。

何より「大本営発表」のような政府の広報に徹する大手マスコミを批判しているところは鋭い。近年、まれに見る経済学者による日本社会批判である。東京電力の原発事故をめぐり沢山の本がでている中で、この本は実にユニークな本である。

なかお・しげお
明治学院大学教授。1954年生まれ。京都大学大学院経済学研究科修了後、大阪市立大学経済研究所教授などを経る。シカゴ、トロント、ロンドン、ロサンゼルス等の欧米や、上海、バンコク、北京、マカオ等のアジアで、講義や研究報告、調査を重ねる。

七つ森書館 1890円 269ページ

  

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