まず「NeuroSpace」のケースを見てみましょう。
筑波大学研究室の脳波測定技術をベースとした睡眠改善サービスを提供するNeuroSpaceは、このプログラムの中で、顧客候補にヒアリングを繰り返して、顧客の目線で考えることを続けました。
その結果、当初の想定とはまったく異なる、外食産業の効率向上や企業のメンタルヘルスなどの新ターゲットを発見。また、睡眠中の脳波を測定するデバイスも、アイマスクのようなものから、女性に好まれる柔らかでおしゃれなナイトキャップの形態に。実際の市場導入に大きく近づき、顧客企業での実験的利用に進んでいます。
社長の小林孝徳氏は以下のように語ります。
「プログラムでは、デザイン、マーケティングの専門家とかなり突っ込んで議論をさせていただいたのですが、いいものを作ることと売ることは別ものということがよくわかりました。技術者は技術にプライドを持っていますが、商品化のためには、技術をいったん排除して、顧客のあたりまえに向き合うことが必要です。寝るときにデバイスをつけてもらうのであれば、寝具としての柔らかさ、清潔さを兼ね備えなければなりません。もちろん見た目もよくないと。プロトタイプを作った後でデザインやマーケティングを考えるのでなく、開発を始めて大きさやスペックが決まった早い段階で、デザイナーやマーケティング専門家に相談すべきと思いました」
NeuroSpaceの変貌ぶりについて、マイクロソフトのエバンジェリストである砂金信一郎氏は「技術はすばらしいのに市場調査やデザインを含むマーケティングが不十分で魅力的な商品やサービスに繋がらない、ちょっと残念な技術シード型スタートアップが多いのが現実。しかし、この取り組みではメンターの強力なバックアップにより技術を活かした商品化の道筋ができるいい例ができた」と評価しています。
Water makes us free
次に「HOTARU」のケースです。同社は東大発スタートアップであり、ポータブル水浄化システムを手がけるHOTARU。彼らは、会社が目指すビジョンをどう伝えるか、技術をプロダクトとしてどう形にするかを模索していました。
プログラムを通して、まとまりがなく伝えにくかったメッセージが整理されていき、最終的に「Water makes us free(あらゆる人が水の問題から解放されて、生活を楽しめる未来をつくる)」というフィロソフィーに結実しました。
プロダクトについても、ターゲットとなるユーザー像を定め、その追跡調査を繰り返すことで、徹底的にプロダクトストーリーを明確化しました。その結果、ユーザーが欲する浄化システム設計と機能を具体化することができました。
東京大学院博士課程に在学中であるHOTARU代表取締役の北川力氏は「人類は水に縛られてきた。地球上の水問題の解決は通過点。最終的にはこの水浄化システムで、宇宙というフロンティアへの人類の挑戦を加速させたい」と夢を語ります。
また、北川氏はこのプログラムについて以下のように振り返ります。
「今回のプログラムを通して、ビジョンが言葉や映像の形になったことは、ひとつのブレイクスルーでした。目指すものを周囲に伝えやすくなり、応援してくれる人が増え、また、われわれスタートアップ自身にとっても重要な道しるべになることを強く実感しています。ビジョンを軸にデザインを進めることで、ビジョンそのものが強力なマーケティングツールになることも勉強になりました」
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