当方の知人でも自社の組織図を見せながら、兼務の数を誇らしげに語る人がいます。相当に上昇志向が高く、兼務の数は出世の近道くらいに考えているのでしょう。
ただ、そのような人は全体からするとわずか。大抵の人は兼務することを喜んではいません。できれば、忙しさが増す兼務はなるべくしたくない、自分の居場所はひとつで十分と考える人が多いでしょう。
ですから、兼務を初めて命じられると、戸惑うことになりがち。では、どのような状態になってしまうのでしょうか?
人材不足から、別の部署の課長を兼務
たとえば製造業の管理部門に勤めるSさん。資材部門一筋に15年勤めてきました。ところが、製造現場の製造課長の兼務を命じられたのです。確かに製造部門と資材部門は同じ工場内にあって場所も近く、まったく知らない部署同士ではありません。
ただ、仕事の専門性には大きな違いがあります。それにもかかわらず、兼務となった背景には、長年製造課長を勤めてきた人の定年退職がありました。後任として課長職を任せられる人材が製造部門にはいない。さらに、本社から新たな課長を任用するのは無理がある。ならば、近くの課長に兼務させればいいではないか……と経営と人事が考えたようです。
この辞令を拒否できるものかどうか、Sさんは悩みました。しかし、自分が兼務するとは思ってもいなかったので、対処法がわかりません。周囲に相談相手もいないので、悩んだものの、兼務を引き受けることにしました。辞令を拒否して、営業部門に異動させられるよりマシだと考えたからです。
「以前に工場から営業に異動になった人がいて、その理由は工場内の兼務を拒否した報復らしい」
とのうわさが工場内にはもれ伝わります。そのうわさも、兼務を断ることをためらう要因になったようです。
さて、兼務をすることになったSさん。その後はどうなったのか?
真面目に資材部門の兼務課長として生産管理や在庫管理、安全管理などの仕事を勉強して、工場内で2つになった課長の席をいったりきたりすることになりました。ちなみに残業管理が厳しい会社なので勤務時間内の仕事の密度を上げるしかありません。Sさんの実感では従来の倍くらいの密度で仕事をこなす毎日になりました。いったいこの生活がいつまで続くのか……。製造部門で次の課長候補になりそうな人は依然、見当たりません。
「仮に主任のDさんが課長になるとしても3年はかかりそうだな」
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