大学の収入を増やす「成績順授業料」のススメ 税金投入の前に国立大学はもっと工夫できる

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それでいて、国立大学には授業料の値上げの裁量権が与えられているにもかかわらず、各大学横並びでほとんど行使されていない。おまけに、医学部でも文学部でも、どの学部に入学しても同じ授業料だ。授業料を上げれば優秀な学生が来なくなると懸念する声があるが、世界トップクラスのアメリカの大学はほとんどが、日本の国立大学よりも5倍前後の授業料を課している。それだけ高い授業料に見合った教育や研究を行っているともいえる。

もちろん、低所得世帯の学生や優秀な学生には、授業料での配慮は必要だ。世界的に見ても、一部の学生に対して授業料を減免することは珍しくない。また、給付型の奨学金を出すこともある。ただ、給付型の奨学金を出す発想は良いが、これだとまたぞろ国立大学が自己収入を増やすインセンティブがそがれる。国の予算で低所得世帯の学生に奨学金を出せば、低所得世帯の学生に配慮ができても、大学の収入が増えるわけではない。それでは今回の議論の文脈とは違う話になってしまう。

画一的な授業料は旧態依然の発想

給付型奨学金で話をそらしてはいけない。研究や教育を充実させるために、国立大学の自己収入を増やす努力をどう引き出すかが問われている。

その点について、筆者は秘策を持っている。それは、学生の成績順に授業料を変えることである。たとえば、成績が上位3分の1の学生は標準の授業料の半額、中位3分の1の学生は標準の授業料、下位3分の1の学生は標準の1.5倍の授業料をとるとしたらどうだろう。これなら、大学に入る授業料収入は、全員から標準の授業料をとったのと同じ収入総額となる。

これを踏まえれば、上位3分の1の学生は標準の授業料の半額、中位3分の1の学生は標準の授業料、下位3分の1の学生から標準の1.75倍の授業料をとれば、大学の授業料収入は約1.1倍になる。ここで3分の1と区切ったのは、数値例を簡単にするためであって、成績の区分を10区分とか細分化すれば、よりきめ細かい配慮が可能となる。また、高い授業料を避けようと、学業により専念するインセンティブを学生に与えることもできる。

他方、成績が下位の学生になぜ高い授業料を課すことが許されるのか、という疑問もあろう。成績が下位の学生は、上位の学生と同等の能力(全人格的なものではなく当該科目に関するもの)が身に着くようにするには、上位の学生に比べてより多くの教育の労力を大学・教員側が施さないといけないとみれば、それだけ高い授業料を課す根拠にもなろう。

こうしてみれば、冒頭の文部科学省の試算は、学生全員に画一的に授業料を上げるという旧態依然とした発想での試算である。標準の授業料を上げなくても、成績が下位の学生だけ授業料を上げることで、成績が上位の学生の授業料を下げつつ、大学の授業料収入を増やすことができる。

文部科学省の試算は、国立大学の努力を引き出すべきところを、全員の授業料を上げるかのようにあらぬ誤解を引き起こして、国立大学法人運営費交付金の予算減額を阻止する圧力をかけるものに成り下がっている。文部科学省には、是非、成績順授業料の試算をお願いしたいものだ。

ただこの秘策、賛同して下さる方はままいるものの、筆者が属する大学でさえ実施していない。実は、この秘策にはオチがある。成績順授業料を導入すると、学生が今までよりも成績にシビアになり、手ぬるく成績をつけていた大学教員には学生側からの圧力で成績の厳格化を求められることとなる。それを見越して、今までのように講義をゆるくやりたい大学教員の多くが導入に反対し、実施できない……という羽目になるだろう。

日本の大学の現状を見れば、実のところ、大学教員の講義に対する姿勢を改めることから始めたほうがいいのかもしれない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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