清水:コンピューターという頭脳を持ち、動翼を手足のごとく使いこなす。さらにレーダもあるので、目も持っていることになりますね。
稲垣:そのとおりです。人間が何かの行動を起こすときには感覚器官を使いますよね。まずは周囲の情報をキャッチし、その情報の意味を理解し、周囲の状況がわかったら、そこで何をすべきかを決めて行動するわけです。自動車の運転ではこのプロセスを「認知・判断・操作」と言いますが、周囲の状況を知覚出来るかどうかを区別する方が便利なことがあるので、私たち研究者の間では「知覚・認知・判断・操作」という方が多いです。
清水:知覚と認知は違うものですか?
稲垣:暗い道を走っているとき、前方にある何かが見えるかどうかは「知覚」です。これに対して、前方に見えたものが何なのか、単に道の横にあるモノが見えているだけなのか、回避しなければならないものなのかといったことがわかることを「認知」と呼びます。言い換えれば「状況理解」ですね。
ボーイング社とエアバス社、それぞれの考え方
清水:なるほど。車の自動運転を考えるとき、航空機の事例は参考になるのではと思っています。きっかけは10年以上前になりますが、ボーイング社とエアバス社ではオートパイロットに対する考え方が違うという話を聞いて興味を持ったことでした。
稲垣:参考になる部分は多いでしょうね。航空機は右方向に曲がるとき、右翼を下げ左翼を上げて、機体を傾けて回るのですが、傾けてもよい角度には限度があります。急旋回しようと機体を傾けすぎると安定性が失われて危険ですから、ボーイングの航空機は「これ以上の角度は危険」というところまで行くと、操縦桿が重くなってパイロットに教えてくれます。
しかし、状況によってはもっと機体を傾けないといけないケースがあります。たとえば前方の飛行機を急旋回で避けようとする場合は、操縦桿が重くなっていても、さらに大きな力をかけると、機械が「これ以上は危険」といっている角度を超えて機体を傾けることができるようになっています。
清水:いつでも主導権をパイロットに戻せるのですね。
稲垣:人間が危険な行為をしようとしたときは、機械は操縦桿を重くして人間の行為を抑止しようとしますが、危険を認識したうえで、それでもなおその行為が必要だと人間が判断した場合は、その人が主導権を取るというのがボーイングの考え方です。機械の抑止を人間がオーバーライドできるようにしておく方式はソフトプロテクションと呼ばれています。
一方、エアバスは設定した角度以上に機体を傾けることを許してくれません。機械が安全だと保障する範囲を超えることを許可しないのです。エアバスはサイドスティックのような形状の操縦桿ですが、これをいくら倒しても、許容範囲を超えようとする入力はすべて無視されます。
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