「開かれた株主総会」を目指すグルメ杵屋の経営哲学
もうひとつ、同社の総会でびっくりすることは、株主総会の開始直後に社歌の斉唱があることだろう。椋本前会長が株主との一体感を持つためにも、社歌斉唱を提案したという。これもオブザーバー参加と同様、前列・慣例がないと却下されたそうだ。そこで苦肉の策として、現在でも総会の開会を宣言する前に「社歌の斉唱は総会とは関係がありません」という体裁を取っているという。
また、飲食業という強みをいかした、総会閉会後の懇親試食会もひとつの魅力だ。懇親試食会では定番メニューに加え、今夏から店頭に並ぶ新メニューも味わえる。会場の一角には、全国うどん打ちコンテストチャンピオンによる、うどん打ちの実演、試食コーナーも設置されていた。試食会半ばからは、関連会社である元気寿司のおすしも加わり、長い行列ができていた。
ずらりと並ぶ食事もさることながら、懇親試食会場に役員総出で接待に回っていることも希代未聞といえる。総会開催中の質疑応答は10人で打ち切られたが、会場のあちこちで一般株主が役員をつかまえて質問や激励、叱咤する姿が見られた。社長も総会中の質問には丁寧に回答していたが、より身近に、株主が一対一で役員と意見交換できる場は通常の会社では皆無だろう。
もちろん業績好調なことが、株主に取ってはなによりのご馳走。外食を取り巻く環境は険しさを増し、低価格うどんを巡っての戦いは厳しくなる一方だ。グルメ杵屋にとっても先行きは決して楽観できるものではないが、株主の質疑応答にも十分な回答をせず、株主を軽視するような株主総会が多くみられるなか、このように株主の満足度を向上しようとする企業に、共感する投資家も少なくはないだろう。
(筑紫 祐二 =東洋経済オンライン)
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