私が喜んだのは言うまでもない。しかし思いがけなかったのは、印刷会社の人も喜んでくれたことだった。新しい技術が生み出されたからだ。しかも、貼りつける手間が省けるのだから、コストも安くなった。
私は改めて、厳しい要求があってこそ、そこに進歩も発展もあるのだということを知った。なるほどそうかと思った。松下も笑って「きみ、やろうと思ったらできるやろ」と、非常に満足してくれた。
ほんものの成功とは、「小さなこと」の積み重ね
こうして私は次第に、経営というものは日常の一見些細と思われることが積み重ねられた叙事詩であることがわかってきた。
とにかく経営というと、組織や制度、あるいは管理や手法、人事といったことを大胆に動かしてやるものであると錯覚してしまいがちである。しかし、そういうシステムとか制度、ノウハウを取り入れたら、それで経営がうまくいくのかといえば、それだけでは断じてうまくいかない。
わが国の経営の基盤をつくったのは、第一線の労働者の細かい気遣いの積み重ねである。経営者、そして社員の、たとえば日々の考え方とか振る舞い、仕事の進め方、打ち込み方、熱意というような「小さなこと」が積み重ねられてこそ、初めて経営の強さが成り立つのである。
この真実は経営のみならず、成功ということにおいてもまったく同じである。松下を間近で見続けていた体験からも、そう断言できる。ときには、偶然の幸運ということもあるだろうが、しかし、それは決して長く続くものではない。マスコミで話題を集めた経営者が、自らの怠慢のゆえにその後失敗してしまった例は、枚挙にいとまがない。
ほんものの成功とは、結局は、日常の一見些細と思われることが積み重ねられた叙事詩である。だから私たちは、些細にとらわれ、大事を忘れてはいけないが、しかし同時に時代の風潮がどうであれ、小さなこと、当たり前のこと、日々を大切にすることを決してためらってはならないのである。
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