松下幸之助は「些細なこと」にも工夫を求めた 成功とは些細なことが積み重ねられた叙事詩

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私が喜んだのは言うまでもない。しかし思いがけなかったのは、印刷会社の人も喜んでくれたことだった。新しい技術が生み出されたからだ。しかも、貼りつける手間が省けるのだから、コストも安くなった。

私は改めて、厳しい要求があってこそ、そこに進歩も発展もあるのだということを知った。なるほどそうかと思った。松下も笑って「きみ、やろうと思ったらできるやろ」と、非常に満足してくれた。

ほんものの成功とは、「小さなこと」の積み重ね

こうして私は次第に、経営というものは日常の一見些細と思われることが積み重ねられた叙事詩であることがわかってきた。

とにかく経営というと、組織や制度、あるいは管理や手法、人事といったことを大胆に動かしてやるものであると錯覚してしまいがちである。しかし、そういうシステムとか制度、ノウハウを取り入れたら、それで経営がうまくいくのかといえば、それだけでは断じてうまくいかない。

わが国の経営の基盤をつくったのは、第一線の労働者の細かい気遣いの積み重ねである。経営者、そして社員の、たとえば日々の考え方とか振る舞い、仕事の進め方、打ち込み方、熱意というような「小さなこと」が積み重ねられてこそ、初めて経営の強さが成り立つのである。

この真実は経営のみならず、成功ということにおいてもまったく同じである。松下を間近で見続けていた体験からも、そう断言できる。ときには、偶然の幸運ということもあるだろうが、しかし、それは決して長く続くものではない。マスコミで話題を集めた経営者が、自らの怠慢のゆえにその後失敗してしまった例は、枚挙にいとまがない。

ほんものの成功とは、結局は、日常の一見些細と思われることが積み重ねられた叙事詩である。だから私たちは、些細にとらわれ、大事を忘れてはいけないが、しかし同時に時代の風潮がどうであれ、小さなこと、当たり前のこと、日々を大切にすることを決してためらってはならないのである。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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