“震災関連死”は本当か、死因究明をおろそかにする日本--震災が突きつけた、日本の課題《2》/吉田典史・ジャーナリスト

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「中越地震や福知山線脱線事故では検死の際、ほとんどのご遺体は解剖されることはなかった。脱線事故では、運転士の遺体が解剖されたと聞くが、その他の犠牲者は医学的な根拠があいまいなまま、死因が判定された可能性がある。その意味では、過去の災害や事故から、大きな学びがなかったと言えるのかもしれない」
 
 岩瀬氏の指摘する“学び”とは、おそらくこのようなことを意味するのだろう。
 
 福知山線脱線事故では、現場に駆けつけた医師らが、ケガをした乗客たちの状況を診て治療したり、病院に搬送する順位を決めた。「トリアージ」と呼ばれるもので、ケガの重症度などに応じ、4段階に分けられる。
 
 「死亡」や「救命が不可能なもの」には、「黒色」の識別表が体につけられた。この場合は、病院への搬送は最も後になるか、遺体安置所などに運ばれる。

これにより、生存者を効率よく病院に搬送し、素早く治療をすることができた。一方で、遺族からすると納得しがたいものがあったと当時、新聞などでは報じられた。
 
 「黒色の識別表を貼られることなく、他の患者と同じように病院に早く運ばれていたら助かったのかもしれない」という思いである。

遺族のこの疑念に応えるためには、遺体を解剖し、死因を正確に判定し、死亡推定時間などを明らかにすることが本来は望ましい。ところが、大半の遺体の解剖は行われていない。ここには、過去の事故や災害で培った教訓を生かすという“学び”があったとはいえないのかもしれない。

納得できない遺族の声

岩瀬氏は、今年4月に起きた関越自動車道のバス衝突事故(群馬県)をさらに挙げた。この事故では7人が死亡したが、現場ではトリアージが行われた。

「遺族は、家族が雑な認定を受けて、たとえば『黒色』の表をつけられたことで、助かるはずの命が奪われたのではないかと思うことがある。そのためにも、正確な死因判定が必要であり、その一環として解剖などをすることで死因をできるだけ正確に特定することが大切だ」

福知山線脱線事故の後も、遺族のこういう不満の声は新聞などで報じられていた。ところが、死因を究明しようとする制度を作るために、政治が強く動くことはなかった。また、世論も制度を強く求めはしなかった。結局、岩瀬氏の指摘どおり、今回のバス衝突事故では、福知山線脱線事故と同じようなことが起きている。

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