島猫3000匹の「不妊化」は、人間のエゴなのか ペット界の新王者「猫」を取り巻く光と影<中>
筆者が徳之島に着いた11月7日は、第5次出張手術の3日目。気温28度という暑さの中、まず目に入ったのは特産品のジャガイモを入れる箱を改造したケースや金属製の捕獲器の列だった。中に1匹ずつ、猫が入っている。
冷房の効いた手術会場。最初のテーブルでは獣医師がケース外から麻酔薬を投与する。子猫に大人の猫と同量の麻酔を打つと死んでしまいかねないため、注意深く量を調節しながら瞬間芸のように注射していく。麻酔が効いたのを確認すると箱から出し、ノミ取り薬や抗生剤、ワクチンを打つ。
次のテープルでは手術する部分の毛をバリカンで剃る。オスは生殖器周辺、メスは下腹部だ。そして耳の先端をV字カットし、傷口をはんだごてで消毒する。残酷に見えるが、手術済みの証としてマイクロチップを埋め込んだとしても、読取装置の規格が複数存在するため実際の役には立ちにくい。現状ではこのやり方が、視覚的に最も効果的なのだ。
「神業」の連続、獣医3人で1日108匹
そして、猫たちは奥にある手術台に固定される。オスは睾丸の間にカミソリを入れて精巣を、メスは下腹部を切って卵巣と子宮を摘出する。傷口はわずか1センチ前後で出血はほとんどない。縫合には自然に溶ける糸を使う。手術の時間は長くても10分弱だ。
最後のテーブルでは、耳の掃除や目薬をさすなどのケアをする。麻酔が効いている間、猫たちは例外なく目を見開いているのだ。その後、ケースに入れ直して翌日まで休養させ、飼い主の元や捕獲場所などに戻す。まさに神業の連続だ。
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