島猫3000匹の「不妊化」は、人間のエゴなのか ペット界の新王者「猫」を取り巻く光と影<中>
ここまで読んできて、徳之島の一斉TNRは愛護精神ではなく「世界自然遺産」が起点であり、意識が遅れていると感じる人も多いだろう。実際、動物愛護団体などからは、「殺処分ゼロ」で先進的な英国やドイツを、日本も見習うべきだとの声が強い。
しかし、話はそんなに単純ではないようだ。国立国会図書館の遠藤真弘氏による論文「諸外国における犬猫殺処分をめぐる状況」(2014年9月発行、「調査と情報」シリーズ830号)によると、ドイツでは国内500カ所以上ある民間の動物保護施設での殺処分は基本的に禁止だが、施設に空きがなければ緊急措置として受け入れを制限できる。
その先に何があるのか。ドイツでは人間の居住地から一定以上離れたところにいる犬や猫は駆除対象とされ、飼い主の有無にかかわらず合法的に射殺できる。管理できない相手には冷たいのだ。年間で猫40万匹、犬6.5万匹が殺されていると指摘する愛護団体もあるという。
ドイツと徳之島、どちらが猫に優しい?
連載第1回でも紹介したが、2013年度の日本の行政による殺処分数(病死や事故死も含む)は猫9万9671匹、犬2万8570匹だ。一方、同論文が引用した全米人道協会の推計によると、米国の動物保護施設で2012〜13年の1年間に殺処分された健康な犬猫は約270万匹。これでも1990年代のTNR定着などで、1970年代の年1200万〜2000万匹からは激減した。
英国でも最大で年4.2万匹の犬猫が処分されている、と同論文は指摘する。日本と同様、その大部分は病気やけがに伴う安楽死だが、施設に空きがないとの理由で健康な犬猫も殺されているという。
徳之島でも「そこらへんで生まれた」猫が、経済的な事情などから不幸な目に遭ってきたかもしれない。だが、ドイツのように問答無用で射殺される例は少なかったのではないだろうか。銃社会ではない日本の長所でもある。海外の例は参考にはなるかもしれないが、盲従する必要まではないだろう。
手術の現場で、麻酔にかかった猫たちはみな、目を見開いていた。人間のエゴのために、子孫を残す権利を奪われることに抗議しているようにも見えた。
しかし、猫の保護と里親探しに関わってきた筆者としては、世界自然遺産登録という動機はさておき、徹底的なTNRは必要だと考える。猫の繁殖能力はすさまじく、数匹取り逃がしただけでも、数年後にはその地域の野良猫の数は元通りになってしまう。そうして急増した猫は感染症、事故、虐待、殺処分などにさらされる。
なんとか保護をしたとしても、きれいごとで済む話ではない。病気の子猫や、出産の連続でぼろぼろの体になった母猫が自分の腕の中で死んでいく時の心情は、 筆舌に尽くしがたい。人間の勝手なエゴかもしれないが、この不幸な連鎖は食い止めるべきなのだ。
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