材質、厚さ、ハンマリングのパターン——さまざまな組み合わせでつくられたシンバルが、工場に並んでいる。訪れたプロのミュージシャンは、その中から気になったものを順に叩いていく。カーン、シャーン、チーン——。一枚ごとに違う音が響き、小出社長はその反応を見つめる。
ゼロから「こういう音」を狙ってつくるのではない。そこから対話を重ねて最適解を探っていく。それが小出流のものづくりだ。「わからない」という謙虚な姿勢だからこそ、顧客との対話が生まれる。その先に、理想の音が紡がれる。
「シンバルづくりに秘密はない」
小出製作所のものづくりには、もうひとつ特徴がある。
合金の組成を公開しているのだ。錫22%、23%、チタン添加——。普通なら企業秘密にしそうな情報を、惜しみなく共有する。請われれば、シンバルづくりのワークショップも開催する。そして、そのどちらでも、わからない部分には「わからない」と包み隠さず伝える。
「うちのシンバルづくりに秘密はありません」と小出社長。それは、たくさんの人のつながりで国産一貫生産が可能になった、同社だからこそのスタンスだ。
音はもちろんだが、そのオープンで誠実な姿勢こそが、多くのミュージシャンを惹きつけてやまないのではないだろうか。今、小出シンバルの製造数は波はあるが、毎月少なくとも200枚を超えている。
と、ここまで語ってからでナンだが、小出社長は、大の音楽マニアでもある。
「ハードロックはやかましすぎるから聞けへんけど、あとはもう何でも聞くね。小さい頃は、うちの母親が琴の演奏者で父親も歌好きやったから、よく聴いてた。中学生の頃は結構クラシックにハマって、今は各国の民謡や歌謡曲も好きやね」
そんな小出社長だから、科学的なアプローチと音楽的な感性の両立ができているのかもしれない。2024年春からの関西大学との共同研究では、錫を添加すると、量が増えるほど、シンバルの振動の伝わり方が微細に変化することがわかった。統計的には「有意差なし」とされるわずかな違いだ。しかし、人間の耳には「かなり違う」と感じられる。数値だけでは測れない領域があるのだ。


















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