当初、大阪合金の会長だった水田泰次さんは、自社でシンバル製造を計画していたのだという。ところが、調べるうちに国内唯一のメーカーの存在を知り、零細企業が「日本唯一」に挑む姿に心を動かされた。
「シンバルづくりはそちらに任せる。材料はうちが開発する。お金はいらない、俺の趣味だから」
そう力強く請け負い、シンバル材料の共同開発がはじまった。
世界標準を超える「B23」の誕生
しかし、開発は困難を極めた。
課題となったのは、錫の含有率による金属の変化だ。一般的な工業用青銅は錫10%程度。対して、シンバル用は20%以上が必要とされ、世界標準は「B20」(錫20%)である。錫の比率を上げると音の響きは良くなるが、硬くなり、加工が格段に難しくなるのだ。しかも、1%増やすごとに金属の性質がガラリと変わってしまう。
失敗に失敗を重ねた。それでも、小出製作所と大阪合金はあきらめなかった。すると、「これまでにない素材を生み出そう」という熱意が、研究者たちを巻き込んでいく。法政大学、福井大学、京都大学、兵庫県にあるSpring-8(世界最高性能の放射光を利用できる実験施設)で研究を行っていた原子力研究機構……。
シンバルづくりはいつのまにか、産学連携プロジェクトになっていったのだ。力強い援軍を得たことと、大阪合金がローラーで青銅を板状にする「圧延機」を購入したことで活路が開けた。2010年、ついに錫を20%含有した青銅板が完成したのだ。
「大阪合金さんはもちろん、たくさんの人のおかげで国産生産が可能になりました。シンバルは本当に人のつながりでできています」
小出社長は、感謝をしみじみ口にする。
だが、研究はそこで止まらなかった。錫の含有量を21%、22%と増やしていった。日本独自のシンバル材を開発したかったのだ。そして2014年、錫の含有量を「これ以上はもう不可能」というところまで増やした、23%の青銅が完成する。
実は錫24.5%も試作してみたそうだが、あまりに加工が難しく、シンバルとしての特性としては23%のものとあまり変わらないことが判明して断念。最終、23%に落ち着いたという。
世界標準のB20をはるかに超える「B23」が誕生した瞬間だった。B23は、「音の立ち上がりが非常に速く、クリアな音が長く響く」特性を持っており、ブラスバンド奏者に支持された。B23シリーズは、人気商品となっていった。


















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