歌手の夏川りみさんのバンドメンバーかつ夫であり、TUBEのサポートドラマーも務める玉木正昭さんは、小出シンバルを何度もリピートしている。
「小出製作所には、全部叩くには1カ月以上かかるほどたくさんのサンプルがあり、訪れた際にチョイスして叩かせていただきました。その中に特に気に入ったものがあり、TUBEのツアー用に特別に少し加工してもらったのがおつきあいの始まりです。イメージした音に素晴らしく仕上げていただき、大変気に入っています」
クラシック界でも評価は高い。日本フィルハーモニー交響楽団の打楽器奏者・福島喜裕さんは、10年以上にわたって小出シンバルを愛用。2020年には日本経済新聞の取材に対して、「音の広がり、響きの輝かしさが秀逸。チャイコフスキーの交響曲第4番第4楽章のような曲で、他の楽器に埋もれず響く」と絶賛する。
「わからない」から理想の音が生まれる
なぜ、小出シンバルは多くのミュージシャンに愛されるのか。
大手メーカーのシンバルは、品質が安定している。世界中どこで買っても、同じ音が手に入る。それは強みであり、しかし、弱みにもなりうる。ミュージシャンのASA-CHANGが「大手製は万能だけど没個性になりがち」と評したように、均質さゆえに個性が薄れるのだ。
小出製作所は違う。「こういう音がほしい」というリクエストに、職人が直接耳を傾ける。現在展開している4つのシリーズは、すべてプロのミュージシャンからの要望をきっかけに生まれたものだ。
というのも、小出社長には演奏経験がない。だからこそ、顧客の声を真摯に聞いてきた。「イメージした音」を言葉で伝えてもらい、それを形にしようと改良を重ねてきたのだ。
けれど、小出社長は自身の能力についてこう話す。
「イメージした音を言われても、わからない」
「音を狙ってつくることはできない。音はあくまでも金属加工の後についてくる結果です」
「注文された通りのものを正確にはつくれません」
一見、矛盾しているようにも思える。だが、そう思うからこそ大量のプロトタイプをつくって、選んでもらっているのだ。


















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