この流れを一段と押し上げたのが、08年創業の「三田製麺所」である。同店は、つけ麺専門店としてチェーン展開に成功し、つけ麺業態をカジュアル外食の地位にまで押し上げたブランドだ。
「三田製麺所」もまた、並盛・中盛・大盛までは同一価格とし、「つけ麺大盛=お得で嬉しい」という感覚を老若男女に浸透させていった。価格帯はリーズナブル、提供も早く、かつボリューム満点。この三拍子がそろえば、つけ麺が都市部の外食ニーズと合致しないわけがない。量の多さが、むしろ競争力になったのである。
飽食の時代の「満腹」という価値
では、なぜつけ麺において「量が多い」ことがここまで強く求められ、受け入れられてきたのだろうか。これはつけ麺という料理の構造とも関係がある。
まず、スープと麺を分けて提供するスタイルは、ラーメンに比べて麺の存在感が際立つ。スープの熱で麺が伸びることも少なく、最後まで食感が保たれるため、たくさんの麺でも飽きがこない。さらに、冷水でしめる工程によって麺が締まり、量があっても重たく感じにくいという物理的な側面もある。
加えて、スープが濃厚でディップ式であることも、麺の量が多くてもバランスを崩さない理由の一つだ。一般的なラーメンと違い、スープをすするというよりは、麺に絡めて味を乗せるため、「麺のボリューム=満足感」へと直結しやすいのだ。
もちろん、現代では健康志向や少食の傾向も見られるが、つけ麺に関してはしっかり食べてこそという価値観が根強く残っている。
その文化的背景には、山岸さんの「俺が足りなかった」という素朴な原点が息づいている。そして、その原点を知る職人たちが継承し、新たな世代のニーズに応えながら、形を変えていったのが、現在のつけ麺のスタンダードなのだ。
このように、様々な名店の存在によって、つけ麺の「大盛、特盛無料」文化は広まっていった。
この飽食の時代にあって、「満腹」という価値を再発見させてくれる料理。それが、つけ麺という存在なのかもしれない。先人たちの熱意と消費者への思いやりに感謝しつつ、今日もありがたくつけ麺でお腹いっぱいになることとしよう。
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