世界経済の大潮流 経済学の常識をくつがえす資本主義の大転換 水野和夫著 ~行き詰まる国民国家求められる経済共同体
評者 橋本 努 北海道大学大学院教授
かつて社会学者の清水幾太郎は、「過去を見る眼が新しくならない限り、現在の新しさは本当に掴めないのである」と述べたことがある。将来を見通すには、固定観念を排して歴史を刷新しなければならない。そんな野心的魅力にあふれる本書は、現代のグローバル化現象を鋭利に解剖してきた著者の、理論的エッセンスを伝える好著である。
たとえば日本では、10年物国債の利回りが1997年に2%を下回って以来、16年目を迎えている。これだけ超低金利の時期が続いたのは世界史的にもまれで、17世紀のイタリア・ジェノヴァで経験された最長記録11年をすでに上回っている。実は超低金利の時期は、紀元前3000年のシュメール王国以降、人類史上3回しか起きていない。残る1回は古代ローマ帝国の経験であるが、いずれにしても私たちは現在、途方もない歴史の断絶を経験しているというのが本書の認識だ。
これだけ金利が低いと、資本家は10年のリスクをとって実物投資をしても、リターンは1%以下にしかならない。企業は最低限の資本蓄積すらもできない。国民全体の資産が豊かになった結果、資本の希少性がなくなり、「資本家の終わり」の時代に突入した。資本主義の成熟とはつまり、資本家や投資家が儲けることのできない時代の到来である。
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