先述のように、緩和ケアは「がん治療の早期から行うべき」とされていますが、実際には症状が進んでから関わることが多く、大きな課題になっています。
患者さんが苦痛を表現しやすく、必要な時期に必要なケアが受けられるように、こうした質問票が緩和ケアの現場では普及しています。
がんと診断されれば、落ち込むのは当然です。それが再発であれば、なおのことです。しかし、その影響からAさんのようにご飯が食べられない、眠れないといった状態が何日も続くようなら、迷わず主治医や緩和ケア医に相談してほしいと思います。
「気分の落ち込み」が出るきっかけ
意外かもしれませんが、こうした症状が出てくるのは、なにも病気や再発を告知されたときとは限りません。
大切な人の不幸や悲しい出来事のようなネガティブなものだけでなく、お祝いごとや、ちょっとしたうれしい出来事、気持ちが高ぶるような出来事など、ポジティブなことであっても、感情が大きく揺さぶられたあとは、不安や落ち込みが出やすいタイミングとされています。
このような精神状態にあるとき、緩和ケアが最初に行うのが、「不安やつらさの正体を、患者さんと一緒に探る」ことです。筆者はこの過程こそ“緩和ケアの要”だと思っています。
具体的にいうと、「この先どうなるかが心配」なら、まずは何がどう心配なのか、患者さんとの対話を通じて不安の正体を一緒に探ります。そして、その不安が仕事の継続やお金にまつわるものであれば、ソーシャルワーカーらと連携して、個々に応じた使える制度を検討していくなど、解決策を提示するのも、広い意味では緩和ケアの1つといえるでしょう。
実際、不安の正体がわかるだけで、ぐっと気持ちがラクになり、症状が軽減されるケースも少なくありません。
今回紹介したAさんは、うつ状態にありましたが、精神的な症状が出てから日が浅かったことと、精神科への受診を嫌がったことから、筆者が診ていきましたが、程度によっては、精神科医と連携して治療を行ったほうがいい場合もあります。
また、今回Aさんには提案しませんでしたが、同じような境遇に置かれている人との対話がケアにつながると思えば、患者会を紹介することもあります。



















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