がんのような命に関わる病気が見つかったときや再発したときなどに生じる憂うつな気持ちや絶望感はもちろんのこと、食欲がない、眠れないといったさまざまな症状を診ていきます。
筆者は、問診の内容や同席していたAさんの姉の話から、Aさんはうつ病の可能性が高いと判断しました。そこで抗うつ薬と睡眠薬を処方して、様子を見ることにしました。
すると服薬を始めてまもなく精神状態が落ち着き始め、1カ月後には食事がとれ、眠れるように。うつ症状が改善したことで、通院も問題なくできるようになり、抗がん剤治療を再開することになりました。
抗うつ薬と睡眠薬は半年ほど継続しましたが、今は服用していません。
生存期間延長の「科学的根拠」も
「死ぬだろう」から「もう一度頑張ってみよう」と、がん治療に対して前向きに捉えられるようになったのは、大きな前進でした。早い段階で緩和ケアにつながったことで、治療に対する姿勢も大きく変わったのです。
日本では、緩和ケアというと、ともすれば“終末期のケア”というイメージを持つ人が少なくありません。しかし、Aさんのようにがんの治療中から並走するのはもちろん、つらさや不安があれば、診断されたそのときから利用できます。
実際、緩和ケアががん治療の早期から関わることで、うつなどの精神症状がうまくコントロールされるため、がんのための治療だけを受けた場合よりも生存期間が延びたという科学的な根拠も示されています。
精神的な症状に対する緩和ケアは、患者さんの抱えるつらさや不安を、問診を通じて掘り下げるところから始まります。
筆者が初診で使うことが多いのが、体や心の様子について患者さん自身が評価する「IPOS(Integrated Palliative care Outcome Scale)」もしくは、苦痛の種類を見極めるための「生活のしやすさに関する質問票」の、2つの質問票です。
「IPOS」は、患者の不安や心配、気分の落ち込み、病気のために生じた気がかりなことへの対応など、10項目の質問に対して5段階で評価する仕組み。「生活のしやすさに関する質問票」は、痛みやだるさ、食欲不振など、具体的な体の症状について、数字で評価します。



















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