打ち明けられず闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪と板挟みとなって「嘘をつかなければ飛べない」という状態に

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ドイツの格安航空会社(LCC)ジャーマンウイングスのパイロットが重度のうつ病歴を抱えたまま、エアバスの小型旅客機A320をフランスの山腹に墜落させた事故が15年に発生し、10年超が経過した。

しかし、世界の航空業界は依然としてパイロットの精神疾患対策に関して国際的な統一の枠組みを策定できていない。大きな障壁となっているのは社会的偏見だ。

欧州航空安全機関(EASA)は航空会社に対してパイロット向けのピアサポート制度の提供を義務付け、医療検査の担当者への監督を強化している。

米連邦航空局(FAA)は、うつ病など精神疾患の治療に用いる抗うつ薬などについて、使用を認める薬のリストを拡大してきた。

また、注意欠如・多動性障害(ADHD)の診断を自己申告するパイロットのために、就航への道筋も整備した。航空会社やパイロット組合も、匿名性を重視したピアサポートプログラムを広げている。

オーストラリア民間航空安全局(CASA)は、うつや不安障害のあるパイロットについても、リスク管理がなされていることを条件に、治療を受けながら医療証明を維持できるよう、ケースごとに判断している。

「嘘をつかなければ飛べない」

しかし政策と現場の認識の隔たりは依然大きい。米国とカナダのパイロット計5170人に対して23年に実施した調査では、過半数が「操縦資格喪失懸念」から医療の受診を避けていると回答。この実態は、パイロット界隈に定着している不気味な格言「嘘をつかなければ飛べない」が事実であることを象徴している。

パイロットの労組と支援団体、航空業界団体は、FAAに対して航空規則制定委員会(ARC)の勧告を採用するよう強く求めている。この勧告は、問題を報告したパイロットを保護し、職務復帰を迅速化する措置だ。米議会下院は9月、FAAに対して2年以内の変更を義務付ける法案を可決した。

次ページ収入が大幅に減少
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事