国有化される東京電力、虚構の早期V字回復計画
東京電力の将来的なあり方をまとめた「総合特別事業計画」が5月9日、枝野幸男経済産業相によって承認された。政府が原子力損害賠償支援機構を通じて、今夏にも東電に1兆円出資すると同時に株式2分の1超を取得し、公的管理下に置く計画だ。
新生東電の経営体制をめぐっては自力再建を目指す東電と国有化したい政府との間で水面下の激しい攻防が続いたが、結局、政府が押し切り決着。財界出身者がことごとく断った会長席には支援機構の下河辺和彦委員長が就くほか、西澤俊夫社長の後任には「東電の中でも比較的改革マインドがある」(関係者)とされる廣瀬直己常務が抜擢された。これで名実共に政府が東電の命運を握ることになった形だ。
事業計画では、電気料金値上げと、来春の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を想定する。同時に10年間で3兆円超の費用削減や、カンパニー化など合理化策を実施。早期に利益を出せる体制を整え、2014年3月期に東電単体で1700億円の営業黒字を見込む。さらに、10年台半ば以降にも社債発行を再開。自力で資金調達をできるようになったところで、支援機構の保有議決権比率を引き下げる青写真を描く。
が、実現のハードルは高い。第一関門は値上げだ。東電は11日、7月からの家庭向け料金の値上げ(平均10・28%)を政府に申請した。
しかし、法人向けの値上げでは、4月中に更新時期を迎えた5・4万件のうち、1・4万件から依然同意を得ていない。実際、「東電の前期の実質的な燃料費用増は電気事業の10%程度で、法人向けの17%値上げはおかしい」(川口商工会議所会頭の児玉洋介・児玉鋳物社長)と企業の値上げへの反発は強い。同商工会議所は4月、公正取引委員会に値上げは独占禁止法違反に当たると申告。同社を含め、商工会議所会員企業の一部は、今も更新に応じていないという。