国有化される東京電力、虚構の早期V字回復計画
家庭用では東電は各世帯からの同意を得る必要はないが、値上げ実施には公聴会を経て、経産相の承認を得なければならない。国民の値上げへの反感に鑑みて、枝野経産相は「電気事業法に基づき厳格に査定する」と厳しく対処する構えだ。東電が今後値上げ幅や開始時期の見直しを迫られる可能性は低くない。
未知数の廃炉、除染費用
第二関門の原発再稼働はさらに難しい。事業計画では、来年4月から15年9月にかけて柏崎刈羽原発7基中、6基の運転再開を見込む。が、承認を手掛ける原子力規制庁は発足準備が進んでおらず、泉田裕彦新潟県知事や会田洋柏崎市長も再稼働に慎重な姿勢を崩していない。
東電によると、再稼働ができない場合、1基当たり月70億円の費用増となる。野村証券の魚本敏宏チーフ・クレジット・アナリストは「再稼働できなければ、年間5400億円の利益下振れ要因になる」と試算。15年3月期に計画する経常黒字2600億円については、再稼働がなければ、1000億円超の巨額赤字になる可能性があると見る。
数十兆円ともされる廃炉や除染の費用もいまだ未知数だ。事業計画では現時点で見積もり困難として費用を計画数字に盛り込まなかったほか、「必要となる場合には制度面での追加的措置の可否について検討することを政府に要請」と明記。額によっては政府にも応分負担を要請することを示唆しているが、「要は廃炉や除染の費用を誰が持つのか政府の腹が決まっておらず、費用がわかった時点であらためて東電をどうするのか、という議論が出てくる可能性もある」(魚本アナリスト)。
不確実な要素を内包しながら、新生東電は厳しい船出を迎える。
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(倉沢美左 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2012年5月26日号)
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