絢香は眉をひそめつつも、彼とチャットのやり取りを始める。話を聞く限り、子供部屋同盟でも裏探偵と同じように復讐を請け負っているという。しかもその対価に必要なのは、金銭ではなく、動機だという。
絢香は簡単な経緯を、チャット画面に記す。
──ふむふむ、でも話を聞く限りだと甚大な損害を被(こうむ)ったのは旦那様のようですが、どうして奥様がご依頼を?
──主人は病院のベッドで、今は指すらまともに動かせない状態ですので。
──なるほど、何やら込み入った事情があるようですね。ではその込み入った事情をレポートにまとめて送ってください。併せて成敗レベルの選択もお願いいたします。
──そのレポートによって、本当に成敗は実行されるのですか?
──証拠と言ってはなんですが、子供テレビのダイジェストを貼っておきますね。
動画内には、竹林沿いの夜道が映されている。同盟の執行部員だという男が、奇妙な筒のような武器で会社員を背後から撃った。会社員は卒倒して泡を吹く。子供部屋同盟が、過去に執行した成敗映像だという。
動機は砂金
絢香は思わず息を呑んだ。ダークウェブは、薬物取引に、口座売買に、偽造身分証明書発行と、なんでもありの無法地帯だと事前に調べて知ってはいたが、このサイトは本当に復讐を請け負い、それを実行している。
──でもどうして、金銭ではなく動機で復讐を請け負うのですか?
──動機は砂金です。金銭より動機を得たほうが、我々には遥かに利益になるのです。
万次郎の言わんとすることはよく分からないが、しかし金銭的に余裕がない絢香にとって、動機で復讐をしてくれるならば願ったりだった。
──分かりました。動機レポートを書いてみます。
──ではレポートが拝読できること、楽しみにしております、アディオス。
絢香は同盟との接続を切ると、さっそくワードパッドを立ち上げた。レポートを書くことなど、大学の課題以来だった。そして夫と出会ったのも、自分がまだ大学生のころだった。
動機というのならば、そのころまで振り返らなくてはならない。
絢香はキーボードに指を置き、自分の記憶を辿っていく。



















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