宗教史に学ぶ「競合分析」と「市場戦略」 宗教市場という「レッドオーシャン」をルターとマーニーはどう戦ったか
彼は、「ローマ教皇や公会議も間違いを犯すことがある」と断言。本当に信頼できるのは、会社の創業マニュアル(聖書)だけである、という「聖書のみ」の原則を打ち立てたのです。
これは、カトリックという組織の存在意義を根底から揺るがす宣言でした。それまでカトリック教会は、神と人をつなぐ唯一の仲介者として、秘蹟(ひせき)という7つのサービスを独占的に提供していました。しかしルターは、「マニュアル(聖書)に書いていない5つのサービス(洗礼と聖餐以外)は不要だ」とし、さらに「すべての信者は神と直接つながれる(万人司祭説)」と主張したのです。
仲介業者(教会)を通さずともサービス(救い)にアクセスできるというこの新しいモデルは、競合の「独占権」を無効化する、破壊的イノベーションでした。
結果、ルターはカトリックから破門されますが、彼を支持する反経営陣(ルター派諸侯)によって保護されます。組織は和解不可能なまでに分裂し、プロテスタントという、史上最大の企業分裂が引き起こされたのです。
歴史が教える市場参入の2つの極意
マーニーとルター。2人の戦略は鮮やかに対照的です。
• マーニーは、競合の「強み(人気機能)」を分析し、それらをすべて取り込むことで、より魅力的なハイブリッドな新製品を引っ提げ、市場に参入しました。
• ルターは、競合の「弱み(コンプラ違反と権威)」を徹底的に攻撃し、市場の不満と結びつけることで、既存の市場秩序そのものを破壊(ディスラプト)しました。
既存勢力の強みを活かすか、それとも弱みを突くか。2人のアプローチは異なりますが、どちらも当時の市場環境と自らのリソースを冷徹に見極めた結果の戦略でした。
歴史とは、数千年にわたる人類の成功と失敗の物語に他なりません。時代や分野は違えど、そこには現代のビジネスにも通じる普遍的な法則が眠っています。彼らのキャリアを紐解き、その思考プロセスを追体験することは、現代を生きる私たちが直面する課題を乗り越えるための、確かなヒントとなるはずです。
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